当たり前の差

むーが

当たり前の差

 私はあまりの衝撃に耐えきれず机をバンと叩く。手がヒリヒリするけどそんなの気にしてられない。

 だってこの国の店はどれも綺麗で透き通ったガラスも使っているのよ? 食事も他の国にはないものが多い。それ以上にびっくりしたのがこの国に繋がる道すらもきちんと整備されているみたいなのよ。

 しかも、馬車も衝撃を吸収する物が使われて移動するのが辛くないんだから。まるで夢のようだわ! 

 他にも色々あるけど、とにかくこの国は快適過ぎて帰りたくなくなってしまうわ。そんな思いがつい声に出てしまう。


「……何よ、これ。信じられない」

「おかしいわよ。こんなの!」

「どうかしましたか?」


私のおかしな言動に見かねたホテルの店員が話しかけてくる。興奮して言葉が変な感じになってしまったわ。やらかしたわね。

 そんな中明らかに面倒な人にしか見えないのにきちんと接客するなんてどこまでこの国は凄いの? 侮れないわ。うちの国も見習わないといけないわね。

 それだからこそ、あの値段なのは信じられなくて店員に問い詰める。


「本当にこれがこの値段でいいわけ?」

「はい。ご不満でしたら上のランクもございますが、いかがなさいますか?」


なんですって? 今のでも十分すぎるほどサービスが充実しているのに更に上があるというのね。

 この店はなんて素晴らしいのかしら!

 握りしめていた手が歓喜で震えてくる。でもそれを顔に出すのは駄目、あからさまに喜ぶのははしたないわ。自然にほほ笑む程度にしないと。


「そうなのね。……でも今回はやめておくわ」

「かしこまりました」


凄く魅力的だったけど、あくまで私はこの国を調査に来た身。普通のものを基準にしないと比較するのが大変になってしまうわ。

 だからランクを上げるのは断腸の思いでやめたわ。ちゃんとこの事は報告しないとね。

 今度来たら絶対その上のランクとやらにするんだから……! この調査をさっさと終わらせるから待ってなさいよ!

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当たり前の差 むーが @mu-ga

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