いいわけ

金谷さとる

ほっとけない

「それで?」

 そう聞いたら馴染みのぬいぐるみ作家が泣いた。いつものように「死んじゃいたい」と。顔見知りの旅館の超裏方バイトを斡旋したりカウンセラーのところへ送迎したりするようになったきっかけは彼女を引っかけた自転車を見送りかけたのを見かけて警察に通報したあの日だ。

 自転車の人にぺこぺこ謝るものだからほっとけなくてしばらくそこにいたのだ。事故を見ていた第三者として。

 まぁ、とにかく彼女は運が悪い。致命傷になってないことが幸運なぐらい。

「本屋さんのレンタルスペースに持っていく予定のぬいぐるみがね」

 ああ、ぶつかられて川に吹っ飛んだあの紙袋。

「ほんとわたしダメで」

 うじうじ泣きだす彼女の手を引いて聞いたことがあるだけの本屋を目指す。

「そうね。ダメね。ちゃんと納入できないって言わなきゃだし、ぶつかってきた人に『大丈夫です』なんて言っちゃダメだわ」

「きっと、わたしがトロかったから」

 だからってぶつかっていいわけがないでしょう。

 ああ、苛立つ。

 なんでこの子は自分が悪いことにしたくてしかたないんだろう。

「ごめんなさい」

「好きで世話を焼いてるんだから気にしないで」

 もう、ムカつく。私が苛立っているから余計に萎縮させてしまっているのがわかるのがまた腹立たしい。

「くだんない言い訳なんていらないから、こわかっただけ言ってればいいの!」

 足を早めたのは照れ隠し。あまりにもにょもにょごにょごにょ聞こえてくるから振り返れば。

「あのね。いてくれて、ありがとう」

 その言葉は妙に照れ臭……。

「あー。お姉さんだー」

 聞き覚えのありすぎる声にイラッとする。

「あのね。何度も言うようにお姉さんと呼ばれる筋合いはありません!」

「あ! ぬいさん! 彼女はタイくんのお姉さんです。ね、未来のお姉さんなんですよ!」

 だから、違うと。

「ネオンくんの未来のお姉さん……」

 なんで彼女はそこに反応しているんでしょう?

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