第11話和輝達が気付かなかったコト




 そんなやり取りをする双子に、和輝は続けて言う。


「俺は、お前達が買い物に行っている間、桜の手当てをするから………

 ああ、桜の服…転んだセイでボロボロになっちまったから……


 優奈や真奈の服を一式風呂場まで持って来てくれ………

 いや、優奈の方の洋服がイイかな?


 そうだ……ワンピースの方が良いな、ズボンは傷口を擦るだろうからな」


 和輝の言葉に、優奈は小首を傾げる。


「はぁ~い、それじゃ………私のワンピースで良いんだね?」


 改めて桜の状態を確認した和輝は、優奈の言葉に頷く。


「あぁ…それで良いだろう……どう見ても、ズボンは…………

 もう、はけそうに無いからな」


 その視線に反応して、優奈も桜の血まみれのヒザを見る。


理解わかった………それで、私の手はいる?お兄ぃちゃん」


 傷口の酷さに、優奈が言外に補助は必要かと問いかけるが、和輝は首を振る。


「いや、必要ない………どっちかってぇーとぉ………

 こいつら2頭の毛の方が問題だろうなぁ………


 毛玉とか結構あるようだから、綺麗に解きほぐして梳くのは

 時間がかかるだろうし………」


 2頭のボルゾイの状態を確認した優奈は、コクッと頷いて真奈を振り返る。


理解わかった……それじゃ…真奈ちゃん

 早くこのカバンを置いて、買い物に行こう」


「はいはい、ちょっと待ってて……今、ドアを開けるから………」


 優奈の楽しそうな声を聞きながら、家の玄関前に着いた真奈が家のドアの鍵を開ける。

 首から下げるように作られている家の鍵を預かっていたのは、今日は真奈の方だった。


「はい、和輝兄ぃ………」


「ああ、サンキュー真奈」


 そういう他愛ない会話をしながら、和輝達兄妹と桜は、ボルゾイ2頭と共に、一軒家に入って行った。

 住宅街にある病院を掲げた一軒家に入った和輝達4人と2頭のボルゾイを、悔しげに見詰める一行がいた。


 実は、和輝にすげなくされた警官達数人が、ソッと後を付けて来ていたのだ。

 躾けの出来ていない超大型犬を子供だけで連れ歩くのは危険だと、今度こそ注意する為に………。

 彼ら警察官の認識からすれば、高校の学生服を着た和輝も、充分に子供の範疇なのだ。


 その固定概念のもと、タイミングを見て注意しようと虎視眈々としていたのだが………。

 妹(=桜を、そう認識)?を連れた和輝を見付け、嬉しそうに走り寄る、さらに年下の妹らしい双子の出現に、警察官達は焦った………が。


 そのどう見ても、小学生の優奈や真奈の命令に、素直に巨大な2頭のボルゾイが従う姿を見て、その警察官達は声をかける前に、あえなく惨敗したのだった。


 そんなコトにまるっきり気付かないまま、和輝は2頭の犬を左右に連れたまま玄関で靴を脱ぎ、桜を片腕に抱いたまま、廊下を進む。

 ちなみに神咲家では、廊下が広く作られている上、診察室の廊下も、ドア1枚ですぐに行けるようにと、繋がっているのだ。


 和輝は、2頭のボルゾイ〈レイ〉と〈サラ〉を、引き戸でクッションフロアーの敷いてある、かつては待合室を兼ねていた広めの部屋へと連れて入る。


「〈レイ〉〈サラ〉…ストップ………シット……ステイッ………」


 そう2頭に言い置いて、自分のベルトに繋いだ2頭の引き綱を外してから、室内にあった椅子に桜を座らせた。







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