第10話桜、ひっそりと落ち込む



 ボルゾイを2頭連れた兄の姿を見付けた2人は、嬉しそうに和輝に駆け寄ってくる。


 駆け寄る優奈と真奈に、和輝の左右に付いて素直に歩いていた2頭のボルゾイ〈レイ〉と〈サラ〉は、自分達に向かって走り寄って来た2人に、嬉しそうにしながら、飛び掛る態勢をとる………が。

 

 そんな状況を瞬時に理解りかいした優奈と真奈は、和輝が2頭を制止する為に命令を出す前に、鋭い声で命令する。


「「ストップ…ステイッ…ダウンッ」」


 優奈と真奈のハモッたサラウンドでの命令に、後ろ足で立ち上がりかけた2頭のボルゾイは、ピタッと動きを止めて、素直にその場にスタッと伏せて見せる。

 それを見た桜は、心底ガックリする。


 どぉーして、飼い主である桜の言うコトを聞かないのにぃ~

 他人の命令に対して、こんなにきちんと従うのよぉ~

 それも、どう見ても私より遥かに年下の女の子達にぃ……ぐっすん…


「ふぅ~…危ない危ない……

 流石に、あの大きさのワンちゃに飛び掛れたら怪我しちゃうもん

 でも、とっても素直で可愛いね、真奈ちゃん」


「うん、本当にね、優奈……ところで、和輝兄ぃ…

 この2頭って…もしかしなくても、その人の犬?って

 うわぁ~…すごい怪我だらけじゃん」


 2人の妹のそれぞれの言葉に頷きながら、和輝は今日もらった、昨日までのバイト代の中から、ツイッと1万円を出して言う。


「あぁ…野良猫と放し飼いの犬に続けざまにぶち当たったらしい

 それよりも、2頭ともかなり毛玉とか出来ているから………


 100円均一にでも行って、毛梳きに必要な道具を買って来てくれよ

 ペットコーナーにでも行けば、それなりの物が有るだろう


 ああ…残った分は………今月のお小遣いとしてやる……仲良く分けろよ」


 和輝の言葉と共に差し出された1万円を受け取った優奈は、真奈を振り返る。


「わぁ~い…真奈ちゃん……あまった分は、今月のお小遣いだってぇ~

 早く買いに行こうよ……うふ…何を買おうかなぁ……」


 そんな優奈に対して、少しだけ達観している分、ややクールな真奈が溜め息混じりに頷く。

 なまじ一卵性の双子なだけに、優奈の気持ちが手に取るように、よぉ~く理解わかるのだ。


「はいはい……ようするに、優奈は、あの2頭のボルゾイを

 早くいじりたいんだね」


 そう言って、そのまま買い物に出かけようとする双子の妹達に、和輝はすかさず注意する。


「あ~こらこら…そこを曲がって、少し行けばすぐに家なんだから

 とりあえずは、家に入ってカバン置いてから買い物に行け

 その方が、ゆっくりと選べるぞ」


 和輝からの言葉に、ペロッと舌を出した優奈は、隣りを歩く真奈に肩を竦めてみせる。


「怒られれちゃった…」


 そんな優奈に、真奈は何時もの調子で応える。


「当たり前でしょう優奈、和輝兄ぃの言う通りだよ

 どうせ、家はもうすぐそこなんだからさ


 邪魔なカバンを置いてから、買い物行こうね

 優奈だって、ゆっくりとお手入れの道具を選びたいでしょ」


 そんなクールな真奈に、優奈が頬をぷぅ~っと膨らませて言う。


「ぶぅ~…真奈ちゃんだって……あの子達に早く触りたいでしょう

 どぉ~してそんなにクールなのぉ…滅多に無いチャンスなのに………」






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