第12話お兄ちゃんは心配性



 和輝は、2頭のボルゾイ〈レイ〉と〈サラ〉を、引き戸でクッションフロアーの敷いてある、かつては待合室を兼ねていた広めの部屋へと連れて入る。


 「〈レイ〉〈サラ〉…ストップ

  シット……ステイッ………」


 そう2頭に言い置いて、自分のベルトに繋いだ2頭の引き綱を外してから、室内にあった椅子に桜を座らせた。


 「さてと………まずは2頭に

  水でも飲ませておくかな」


 呟く和輝の声にかぶさるように、トテトテとした軽い足音が廊下を横切って行く。

 カバンを部屋に置いた優奈と真奈の足音である。

 その近付く足音が部屋を通り過ぎる前に、和輝は部屋の引き戸をスッと少し空けて2人の顔を見ながら注意する。


 「気をつけて行けよ

  なんか、最近、変質者が

  出ているって話しだからな」


 和輝の言葉に、優奈が心配性の兄の言動に肩を竦めながら、腕に抱いて持ってきた洋服を差し出す。


 「はぁ~い……気を付けまぁ~す

  あっ…ワンピース、コレで良い?

  お兄ぃちゃん」


 差し出されたワンピースを、和輝は受け取る。


 「あぁ…充分だ

  ありがとう、優奈」


 そんな心配性の和輝に、真奈が言う。


 「大丈夫だって、和兄ぃ

  アタシも一緒なんだから………」


 身体を動かすことが好きで、空手や合気道を和輝と一緒に嗜(たしな)んでいる

真奈の言葉に、優奈がのっかる。


 「そうそう大丈夫だって

  真奈ちゃんも一緒だし……」 


 一卵性双生児とは言え、優奈はそこまで身体を動かすコトに積極的じゃないので、真奈のほうが鋭い印象を与える。

 造作はそっくりでも、精神面の違いがソコに出ていた。


 和輝の心配からの注意に、2人はそう嬉しそうに答える。


 だから、心配なんだよ

 無謀なコトしそうで………


 そうは思うものの、ソコを指摘すると拗ねるのは確実なので、和輝は無難な言葉をかける。


 「暗くなる前には

  帰って来いよ」


 「「はぁ~い」」


 優奈も真奈も、お買い物が嬉しいらしく、和輝からの注意に、コクコクしながらも玄関にいそいそと向かう。


 まっ大丈夫かな?

 今回は、ボルゾイってモンが

 ここに居るから………


 こいつらをいじりたくて

 買うもんを買ったら

 さっさと帰ってくるだろう


 双子の妹達の後姿を見送った和輝は、ひとつ溜め息を吐いて、引き戸を閉める。

 そして、優奈に手渡されたワンピースを、とりあえずテーブルの上に置いた和輝は、2頭のボルゾイに逃げられないようにと、引き戸の鍵を閉める。


 えぇ~とぉ…ボルゾイって…たしか

 コントロールが難しい犬種だけど…

 頭の良い犬だったよなぁ………


 なまじ頭が良すぎて

 主人の親兄弟とか子供でも

 時と場合によっては

 馬鹿にするって………


 誰か言っていたような気が………

 それとも、あのカタログの説明に

 書かれていたんだっけか?


 じゃなくて………

 あれだけ、走って来ましたって

 舌を出してハアハアしてたんだから

 喉が渇いていろだろうから


 とりあえずは

 水でも飲ませておくかな?

 でもって、桜の方の対処もしねぇーと




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