第2話2頭の犬に引き摺られてる少女に遭遇しました



 クビの理由は、和輝が先刻から内心でぼやいたとおり、店のオーナーの息子が、就職に失敗して、そこで働くコトになった為だった。


 あまり大きな店ではないので、雇える人数には限りがあるのだ。

 その為に、1番の新参者である和輝が、クビを切られたのだ。


 店長にクビを言い渡されて、和輝は数瞬呆然とした。


 だが、まだ高校生の身で、双子の妹を養わなければならない立場になってしまった和輝は、即座にロッカールームに置いてある私物をまとめ始めた。


 度重なる不幸の連鎖のお陰で、思考の切り替えが早くなった和輝である。


 ふっ………そンな簡単な理由で、俺はクビかよ

 だったら、こんなところには、もう用はねぇー………


 和輝はロッカーの中に置いていた、予備の着替えをカバンに詰め込む。


 よしっ忘れ物は無いな

 ここでグダグダ店長相手にごねるより、さっさと家に帰って

 新しいアルバイトを探すほうが、よっぽど建設的だからな


 はぁ~………マジ、早急に、新しいアルバイト探しをしないとな


 でも新しいアルバイト先が見つかるまでの少しの間なら

 優奈や真奈の側に居てやれるかな?


 しばらくは、節約生活で乗り切ろう


 私物をカバンに詰め、アルバイトに入って働いている先輩達に、別れの挨拶を簡単にして、和輝は元アルバイト先をさっさと後にした。

 それが、ほんの5分前だった。


 しかし、いくら意識を建設的な方向へと切り替えても、アルバイトをクビになった事実は、和輝に重くのしかかった。


 だから、何時もよりかなり早い帰宅にもかかわらず、重い足取りで家へと向かっていた。


 そんな黄昏たそがれきっている和輝の耳に、少女の途切れ途切れの叫び声が飛び込んでくる。


「………〈レイ〉っっ……〈サラ〉っっ…………はしるなぁぁ………

 とまれぇぇぇ………えぇぇい……止まれって…言ってるのにぃぃ~

 …このバカ犬ぅぅぅぅ……とまれぇ~………」


 少女の叫び声に、顔を上げた和輝が見たモノは………。

 数メートル程前方で、2頭の巨大な犬に引き摺られている、黒髪の綺麗な少女の姿だった。


 ただし、かなり華奢な感じで、和輝の妹達とさほど変わらない年恰好だった。

 そんな少女が、ハァーハァーしながら、必死で走っているのだ。

 正確には、半分以上引き摺られるようにして強制マラソンをさせられていた。


 ガタイは大きいが、スレンダーで優美な姿態を持つ長毛種の2頭は、手綱の後ろにいる華奢な飼い主の様子など何処吹く風という風情で、嬉々として走っている。


 ……えっ? ……うそだろっ……オイオイ…マジかよっ………


 あんな小さくて細っこい身体で、あ~んなにデッカイ犬を

 2頭も連れて歩こうってか?……それ、間違っているぞ


 ったく…家族は止めなかったのかよ?……危険だって………


 それにしても、あの2頭………全然、あの子の命令聞いて無いし

 誰か止めろよなぁ………流石に、可哀想だろぉ~が


 ったくよぉ………いい大人が、ただ遠巻きに観ているだけかよ

 マジで、情けねぇ~なぁ………って、もしかして怖いのかな?

 まぁーかなぁ~りデケー犬だから、しょうがないのか?


 和輝は優美な超大型犬の姿を確認し、その犬種の名を思い出すのだった。


 えぇ~とぉ…この超大型犬……どっかの動物番組で見たコトあるぞ

 こんなに、綺麗で優雅な犬ってそうそう居ないよな


 確か、この犬ってロシア犬だったよなぁ?

 ロシア貴族が、足元で飼っていたって犬


 優奈が好きだっていた犬種で……えっと…なんていったっけか?

 あぁ……そうだ…ボルゾイだ……確か、狼狩りにも使っていたヤツだ


 あと、農奴狩りにも使われていたって話しがあったな

 飼っている貴族達以外からは嫌われていて、革命時に虐殺された


 とか言う、かなぁ~り本当らしい逸話のある犬だったよな

 そのセイか、人を平気で噛むコトでも有名な犬のはずだ


 確か、ボルゾイってサイトハウンドの猟犬だったはず………

 頭が良過ぎるくらいに良いだけあって、人を見て命令を聞くとか


 飼い主の家族でも、自分が嫌いなヤツの言うコトは、無視したり

 平気で牙を剥くって……いう話しも聞いたコトあるな


 ただ、日本に輸入されているボルゾイの大半は、革命のだいぶ前に

 海外の富豪や、外交の為にプレゼントで出てたのだって聞いたコトあるな


 きちんと管理されているタイプは、噛まないって聞いたコトあるな

 確か、イギリスタイプだっけか?アメリカタイプも居たはずだよな


 じゃなくて、やっぱり………ここは、止めてやった方がいいよなぁ

 優奈や真奈ぐらいの小柄な身体で…あれは無いわ


 デカイ犬に、あんな風に引き摺りまわされてる姿って………

 見てみぬフリするのは…流石に、俺の良心が痛むぜ


 本当なら、ここは『君子危うきに近寄らず』した方が良いのは

 俺もよぉ~くっているけど……


 流石に、優奈や真奈とさほど変わらない少女を見捨てるコトはできないな

 となると、ここは、思いっきり命令してみっか?…聞くかぁ?俺の命令


 和輝は大きく溜め息を吐いて、嬉々としている2頭を観察する。


 さぁ~て、あの2頭のボルゾイは、俺の命令を聞くかな?

 ここは、やっぱり英語でのコマンドとして命令した方が良いのかな?


 大半の犬は………明確な意思を込めて、ちゃんと命令すると

 結構簡単に従うっていうのは、聞いたこと有るけど?


 ただ、相手は見知らない、頭の良いボルゾイだからなぁ……

 ここは、ちょっと威圧も入れてみるか?


 さて、あの2頭はどうかな?俺の命令を聞いてくれるかな?

 まっ…………命令してダメだったら……実力行使するしかないな


 ただし、ちゃ~んと力加減してやらないと、わりと華奢な犬だから

 骨が折れちまいそうなのが、ちょっと難点かな?


 ふむ……犬の名前は………〈レイ〉と〈サラ〉で良いのかな?


 たぶん、左側のガタイが大きいのが、オスで〈レイ〉だろう

 右側のすこし小柄な方がメスで〈サラ〉とみたけど………さて








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