お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ

第1話プロローグ…突然バイトのクビを切られました



 俺、|神咲(かんざき)|和輝(かずき)は、今日、再び

 自分の力だけではどうしようもないコトがあるという

 不条理な現実を味わうコトになってしまった


 学校を出て、アルバイトに入るまでは微塵も感じていなかった疲労感や自分達の今後に対しての不安というモノが、ジンワリと|和輝(かずき)の胸の中で薄暗く広がる。


「はぁ~…マジで、久々に最悪の状態だなクソッ……バイト…クビかよ……

 ったく、稼ぎ|時(どき)の5月の連休目前で、せっかくの連休で稼ぎ|時(どき)なのに…」


 今回のクビの原因が、自分に非がある訳じゃないと理解っていても、クビになった事実は変わらないので、自然と|和輝(かずき)の肩は落ちてしまう。


 ハァ~……こんなに……こころの中が、空虚に満ち溢れた

 最悪な気分を味わうのは………

 母さんが謎の怪死した6年前の事件以来だなぁ


 6年前は、真奈も優奈も、まだ幼かったから

 事件のコトがよく|理解(わか)らなくて


 『『どうして? おにいちゃん?

  お母さんが家に帰ってこないの?』』


 って、よく俺や親父にサラウンドで泣いたっけな、双子の妹達は………

 それでも、母さんが亡くなった時は、何時でもどこか突き抜けた


 能天気そのモノと言っても、絶対に過言じゃない親父が

 俺達のそばに居たからなぁ………


 今考えると、あまり…いや、かなり…哀しんでいる暇はなかったなぁ

 けど、今度は、その能天気な親父がいねぇー


 2ヵ月前、バスに乗っている最中に、飲酒運転の車に衝突されて

 親父はあっけなく死んじまった


 親父が死んでからの1週間は忙しすぎて、あまり覚えていない

 精神のどこかがマヒしちまって、哀しんでいる暇も無かったってコト

 ぐらいしか記憶に無い


 ふっ………泣く余裕なんて、まるっきり無かったってーのが正解かな?

 親父という|大黒柱(だいこくばしら)を失ったコトを、哀しむ暇なんてなかった


 だって、俺達兄妹は現実生活に、追っかけられちまっていたから……


 いくら親父の死亡事故で、保険金がそれなりに入っても

 何がどうなっているのか全然|理解(わか)らないうちに


 貯金の残高が、それこそ瞬く間に目減りして行くのを目の当たりにして

 流石に、これは不味いって思ったっけ


 だから、一生懸命アルバイトの時間を限界いっぱいまで伸ばして

 妹達に我慢をさせて、頑張ったのに………コレかよ


 家で勉強に費やしていた分の時間も、アルバイトにつぎ込んだのになぁ…

 はぁ~………俺なりに、マジで勤勉にアルバイトしてたんだけどなぁ……


 ふっ………世間てヤツは、努力ってモンが結構どころじゃなく

 むくわれねぇー…世界だってコトが…よぉ~く…身に染みてわかったぜ


 頑張ってアルバイトにセイを出した結果が……コレかよ

 一生懸命やってクビってーのは俺的には、かなり痛いな


 ハァー………流石に、短期間に、こうもガックリするコトが何度も続くと

 いくら俺でも、頑張りようが無くなる


 それに、クビの理由が理由だしな

 俺に、クビになるような重大な落ち度があるなら諦めもつくけどよぉ……


 オーナーの息子がバイトに入るからっていう理由だけで

 1番若い俺が、クビってぇ~のはなぁ………


 親父の死亡で入った保険金なんか、病院に設置してあった医療機器と

 親父の葬式etc.でほとんど残らなかったし………


 本当は、あの最新医療機器リース契約の筈だったのに………

 なんでだか分からない内に、買い取るハメになっちまった分の

 出費が痛かったぜ


 実際、あんなモン、医師の親父が居なければ、無用の長物だっつーの

 いや、使い方はわかるけどさ………門前の小僧で………


 妹達が子犬やら子猫を拾ってくるから……それも、大概ケガしてるやつ

 じゃない………逃避するな、俺


 クソッ………今後を考えて、寂しがる2人に我慢してもらって

 一生懸命アルバイトにセイを出していたのによぉ~………


 自分の努力だけじゃ……どうしようもない現実で味わう

 無力感や寂寥感にさいなまれる……って言うのはさ

 たぶん、こういう状態を言うんだろうなぁ…はぁ~


 そう内心で呟き、ここしばらく、自分の身の回りで起こった出来事を|和輝(かずき)は思い返す。


 不幸の連鎖って言ってもイイ今の状態の始まりは、親父の死亡からかな?


 そう、|和輝(かずき)の父親は、つい2ヵ月前に、遠縁の結婚式に出席し、その帰宅途中、バス事故に遭遇して死亡しているのだ。


 突然、保護者である父親を事故で奪われた|和輝(かずき)は、5才年下の双子の妹である優奈と真奈の面倒を、過保護にならない程度にみながら、葬式etc.を必死にこなして来たのだ。


 |和輝(かずき)は入学する高校が決まったところで、自立のためのアルバイトを決めていたのだ。

 そして、アルバイトしながらの高校生活のリズムもだいぶ起動に乗り始めていた矢先に起きた、父親の死亡だった。


 そして、世間はそんな|和輝(かずき)達兄妹に、優しくも甘くも無かった。

 ようやく、父親が居ないコトに慣れてきた|和輝(かずき)は、今日も今日とて、何時も通りアルバイト先に入った。


 それが、ほんの10分前のことだった。


 アルバイトに入った直後、何時も通り作業服に着替えようとしていた|和輝(かずき)は、店長に呼び止められて、別室へと入った。

 そして、その別室で、店長から昨日までの給料が入った封筒を手渡され、突然のクビを言い渡されたのだ。





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