いいわけ【KAC20237】

あきのりんご

いいわけ

 深夜零時、眠るためスマートフォンを充電器にセットすると、ピロピロと着信音が鳴った。発信元は親友のハルカ。


「もしもし?」


 ハルカは泣いていた。


『彼氏が浮気してたああ』


「まじで?」


『うっ……うええん』


 泣きじゃくるハルカの話を根気よく聞くと、どうやら彼の部屋のクローゼットの奥に女物の洋服があったらしい。小柄なハルカとはサイズが全然違っていたと。

 確かにそれはアヤシイ。


「なんでクローゼットの奥なんて見たのよ」


『だってえ、帰ってきたときに驚かせようと思って』


 クローゼットに隠れようとしたわけね。


「でもさ、それが浮気の証拠にはならないでしょ」


『なんで』


「だってほら、彼のお母さんやお姉さんの服かもしれないじゃない?」


 自分でも苦しい言い訳だと思う。

 他に考えられる可能性は――。


「元カノの持ち物だったとか?」


『いやああ!』


 ハルカの絶叫で耳がキーンとする。私は思わずスマートフォンを耳から遠ざけた。

 泣きじゃくるハルカのタイミングを計って、なだめることにする。


「泣いてないで。きちんと確認した方がいいわよ」


『うう』


「彼は浮気のできるタイプじゃないでしょ」


『わ、私だってそう思ってたけど』


「結婚の話も出てたんでしょ?」


『うん』


「じゃあ、なおさら話し合わないと。もし浮気してないのに浮気したと決めつけて別れることになってもいいわけ?」


『そ、そんなの……いいわけない!』


「でしょ? じゃあ、きちんと向き合って話し合いなよ」


『うう、わかった』


 よかった、ハルカの声が落ち着いてきた。


『ユウちゃん~』


「早く彼に電話しな」


『ありがとう』


 電話を切り、ため息を吐く。

 私にはわかる。ハルカが見つけた服はだと。

 彼と私は同じ高校の出身で、文化祭で女装していた彼を見たことがあった。とても楽しそうだった。

 こういうのは下手な言い訳をするより、素直にさらけ出す方がいい。

 幸せな結果になりますように。

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