言い訳から始まる恋
マチュピチュ 剣之助
不思議な出来事の理由
「それじゃあ、今までの不思議な出来事はすべて宮田さんが仕組んだことなのですか」
太郎は大声でまくしたてる。
「ちょっと、太郎くん。ここは、本屋だよ・・・もうちょっと静かな声でお願い・・・」
本屋の店員である宮田は、太郎の様子を見て慌てる。その横で、美穂は恥ずかしそうに下をうつむいている。
太郎の周りでとても奇妙な事件が、ここ一年間の間たくさん起こった。
ある時は、大好きな本屋さんが突然消えてしまった
ある時は、不思議な家が突然できて、昔大切にしていてぬいぐるみが現れた
ある時は、幼馴染から急にぐちゃぐちゃになったプレゼントを渡された
ある時は、仲良くしていた本屋の店員が突然失踪した
これらのことは、太郎にとって不可解なことばかりであった。筋肉までが脳みそになっている太郎にとっては、これらの不可解な原因は、四葉のクローバーを身に着けていたからだとずっと思っていた。
しかし、今、宮田が話した内容は、奇妙な事件が起きたのは、意図的なものであったことを意味していた。ここ最近、奇妙な事件が起きていたのは、すべて宮田が仕組んだことであり、それは美穂に頼まれてのことであったそうだ。
「本当に意味がわからないです。本屋が消えるといったことも、宮田さんが突然失踪したことも、僕だけじゃなくて、他の人にも迷惑をかけているじゃないですか。そこまでしてしなければならないことなんてないはずです」
「いや、だって美穂ちゃんからお願いされたときに、それくらいしないと太郎くんの気持ちは変わらないと思ったんだよね・・・」
「一体美穂はどんなお願いをしたの?」
太郎の怒りの矛先は美穂に向いた。美穂は相変わらず下をうつむいたままである。
「あのね・・・」
ようやく美穂が口を開いた。
「私は小さい頃から太郎のことが好きだったんだよ」
美穂の顔は赤らんでいた。太郎は、美穂が自分に好意を抱いていたことなどまったく気づいていなかった。
「ほら、こんなにも鈍感なのだから、普通の人と同じことをしては、絶対に気づかないと思ったんだよ」
申し訳なさそうにしながらも、美穂は口を膨らませていた。
「ふふ、だから私はそれくらい大きなことをしないといけないなと思ったの」
宮田が少しだけおかしそうな顔をして言う。
「考えてごらん。この奇妙な事件が起きてから、美穂ちゃんに対する感情はどうなった?」
そう宮田から聞かれて、太郎は自分の胸に尋ねてみた。
確かに、美穂のことを単なる幼馴染ではないように思えてきていたのであった。
本屋を太郎が救った時、美穂は野次馬が邪魔しないように必死に部外者を外に追い出していたのを知っていた
太郎と美穂が、怪しい家を見に行った時、気絶しそうになって倒れかけた太郎を、美穂は体で支えてくれた
ぐちゃぐちゃになったプレゼントを美穂がくれたとき、太郎の心は美穂に動き始めていた
宮田が失踪したとき、美穂はクッキーを太郎に渡して原因追及をサポートしてくれていた
筋脳な太郎を受け入れてくれている美穂を太郎は心地よく思っていた
7とか四葉のクローバーとか、幸運に思われているものが嫌だという気持ちを、美穂に素直に話すことができた
「だけど、それでもしていいことといけないことがあるよ」
気持ちが揺れ動いているのは気づきながらも、太郎は改めて冷静になろうとして、美穂と宮田を問いただす。
「だって、だって・・・」
美穂が少しどもり、深呼吸をする。
「太郎に私の思いを気づいてもらいたかったんだもん!」
美穂が急に大声を出したので、太郎はあっけにとられた。
「いや、ちょっとそんな言い訳通じないよ・・・」
そう、太郎は言ったが、なぜか美穂の言い訳が愛らしく思えてきた。
「そっか、それくらい僕のことを思ってくれていたんだね・・・」
太郎の言葉を聞いて、美穂はコックリと頷いた。目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
気が付いた時には、宮田はもう近くにいなかった。おそらく、二人の雰囲気を感じ取ってバレないようにどこかに行ったのだろう。宮田は、太郎が好きな本を見つけるのが速く、とても感覚の研ぎ澄まされている人であった。
「それじゃ、行こうか・・・」
太郎は、そう言って手を差し出した。
「うん・・・」
美穂は頷いて、太郎の手を握った。
それからは、太郎の周りに奇妙な出来事が起きることはなかった。
言い訳から始まる恋 マチュピチュ 剣之助 @kiio_askym
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます