綺麗。

すずちよまる

綺麗な場所

気づいたら、窓の外は、夜の帳が降りていた。

春になりかけている季節の黒い空は、澄んでいて美しい。

暗い光は、誰もいない、灯りのついていない教室を照らした。

…………手が、ベタベタする。

自分の手に視線を落とす。何か黒いドロドロしたものがたくさんついている。

そして黒いドロドロに纏われた、お気に入りの赤いボールペンを軽く握っている。

窓ガラスをよく見たら、黒いドロドロがついた私の顔が映っていた。

――――すごく綺麗。お姫様みたい。

つんとした香りがして、私は下を向いた。

誰もいない、は嘘だった。

暗い光に照らされて、私の足元で眠っているあなた。とっても素敵な表情。王子様みたい。

黒いドロドロ、あなたが私にくれたんだね。

あなたも、幸せそうだね。

私が幸せにしてあげたんだ。

だってこんな世界で、ただ同じように歩くよりよっぽど幸せでしょう?

ごめん、一緒じゃなくて。私、急いで追いかけるから、ちょっと待っててね…………





本当に素敵な場所に来たね。

二人で旅行にいつか行こうって、話してたもんね。

お金なんかなくても、行けたよ。

ほら、やっぱり簡単だったでしょ?

あのときどうして怒ったの?

綺麗な景色、見れたでしょ。

あの不思議な木は、綺麗な真っ赤。

空は、澄んだ黒。

広くて、何もない。少しだけ、不気味。

でも本当に来たかった場所が、近い気がする。

ねぇ、あなたはさっきからなんで何も言わないの?

なんで手をつないでくれているだけなの?

あ、見て。あそこから白い光が差し込んでる。

きっとあそこだよ。私たちが幸せでいられる場所――――。


「待ってください。あなたは、こっちです」


え、どうして?どうして真っ暗なほうに行かなきゃならないの?

絶対、あの場所には幸せはない。なぜかそうわかる。

あれ?行けない。白い光のほうに、行けない。

…………え?なんで?

なんであなたは……そっちへ行けるの?

待って、置いてかないで!私はずっとあなたと一緒がいい!


「あなたはこっちです」


待って!私はあなたと幸せになりたいの!

どんどん、吸い込まれていく。暗闇の中に。


「あなたは、命を奪いました」


え?


「あなたは何人もの生き物……主に人間を抹殺しました。だからあなたは、こっちです」


私…………私…………


「さぁ、行きましょう」


待って……言い訳させて


――――気づいてしまった。

私は声が出せない。喉を切ったから。彼の喉も…………。


「行きましょう」


言い訳……させて。

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