イチゴショートをどうぞ

菜月 夕

第1話



 始まりはイチゴだった。

 「ねぇ、一緒にラズベリーパイを作ってくれない?」

 僕は舞い上がっていた。

 僕らは工学部の学生で彼女は工学部の紅一点。彼女は美人でその発想でも群を抜いてい居る高嶺の華なのだ。

僕らは密かに不可侵協定を暗黙裡としていたが、それはそれとしてそーーっと自己アピールはしていた。

 僕は自炊の傍らに覚えた手作りのクッキーなどを持ってお茶の時間に差し入れしていたが、そんなお茶会の折りに彼女がためらいながら切り出してきたのだ。

 それはそうとラズベリーパイって知っているだろうか。

 昔ならワンボードマイコンと言ったところだろう小さなマシンでなんと専用OSが乗る極小パソコンにもなるし、ハンダで回路をつけて専用マシンにもなる優れものだ。

 僕はこの学科では機械いじりだけが得意な凡人だが、彼女は発想は豊かでもそっちは苦手なので僕に声をかけてくれたのだろう。

 翌日は丁度休み。彼女との待ち合わせ場所から彼女に連れられて赴くと、なんと彼女の自宅。テンションはますます上がって行った。

 そして通されたのは何故か台所だった。

 「これなのよ。このレシピ通りに作ってみたんだけど、今一つで、君ならよくお菓子とかも作って持ってきてくれたし、何かヒントがあるすもと」

 と、テーブルの上のラズベリーパイのショートケーキを見せてくれた。

 動揺しながらも、味をみると何かが足りないような、多いような。

 材料を見ると、あれ、これ普通のラズベリーと違う。ちょっと普通のより小さくて食べてみると甘さの質が違う。

 「あ、それね。おばあちゃんが山から持ってきて庭に植えたラズベリーなの。いっぱい生ってたからそれで作ってみたかったの」

 そうか、確かに僕も覚えのある味だ。これはラズベリーと同じ木苺だけど、自生種のヤマイチゴだ。味があちらのベリーより鮮烈な分、そのままのパイ生地と合わなかったんだ。

 僕がそう教えて解決策を考えてもう一度彼女と一緒にパイを焼く。

 「あ、、、、。」彼女はいつものドジをしたのかパイをひっくり返してしまった。

 慌てる彼女に「そのままで使おうよ。同じような失敗をしたパイをタルトタタンって言うんだけど、そっちも美味しいんだ。

 そうして焼きあがったパイを二人で食べると「しょ、しょっぱいーーっ」どうもさっき慌てた時に彼女は足したパイ生地に塩を多く入れたようだ。。。。。

 慌てる彼女に「これはこれでうまく使えるよ」そのパイを荒く砕いて新たに作ったタルトタタンに少しづつ乗せて。

 これが丁度良い塩味のディップになってるし、一度焼いた物だから少し焦げ目もついたのがヤマイチゴの風味によく合ったのだ「美味しいー」

 

 え、それからどうなったかって?

 ラズパイの器械と間違ったラズベリーパイは僕たち二人に機会を与えてくれた。

 しょっぱい失敗のタルトはひっくり返して僕に逆転ホームランをくれた。

 彼女の失敗をフォローし続けたのが良かったのだろう。

 そして僕は二人の記念日にはこうしてパイを焼く。

 パイの生地を重ねるように、二人の幸せを重ねるんだ。


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イチゴショートをどうぞ 菜月 夕 @kaicho_oba

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