第24話 酒にも、飲み時というものがある。

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「出撃前の乾杯の後に盃を割る例は、いくらかありますから、そのような儀礼をする国や地域、一定の人たちがいることは、士官学校の授業で聞いた覚えありますから、昭和初期ですね、その頃に京都駅で出世する同僚というか上司というか、そういう人の見送りでそういう話があったとしても、さほど私はびっくりしません。ですが実際に目の当たりにされるどころか、その仲間に引きずり込まれては、さすがに、びっくりしますよね」

「そのような話は、兄が子どもの頃に読んでいた戦記物で、そんな場面があるって聞かされたことがありましたけど、現実に、駅でそんなことされるのを見たことはありませんからねぇ。まして一緒に乾杯されるなんて、得難いことこの上ない経験ですね」

 一通り感想を述べたところで、年長の山藤氏が更なる感想を述べる。

「しかもシャンパンですよね。それにしてもいい酒飲ませてもらえたものですよ」


 岡原名誉教授が、若き日々をさらに回想してみせる。

「酒なら、旧制中学の頃から菊政君なんかとこっそり飲んでおりましたから、とっくに免疫はできておりました。我々二人とも、あの時は何とか、ギリギリ満20歳になっておりました。ほどほど慣れた後で、シャンパンの味もよくわかって良かったですよ」

「そういう問題ですかねぇ?」

「いや、堀田君、それはある意味、そういう問題である。岡原さんと菊政さんがある程度酒に飲み慣れていらしたからこそだな、すんなりシャンパンという未知の酒を味わえたことは、間違いないだろう。私はなんせ職業軍人を目指しておったくらいであるから、学生時代は酒を飲む間もなく、任官して後に飲むようになったが、最初の頃は、今さらなんでこんなものを飲まねばならぬかと思ったほどだったからね。そんな時期にシャンパンなんか飲んでも、もったいないだけであったと思われてならんね」

「なるほど。そう言われてみれば、どんな酒でも、飲み時ってものが、あるものですね」

 今やベテラン大学教授とはいえ、この場では最年少の堀田氏の弁に、最年長の名誉教授がさらにその話をつないでいく。


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