第23話 割れたグラスは破損証明。そして、チップ!
「オカハラクン、ヨカッタラ、コレカラノミニイカナイカ?」
最初に声をかけてくれたおじさんに言われて、駅の近くの洋風レストランに行くことになったのね。聞けば、東京と京都に事務所をもって、日本との貿易を主な業務にしている外国の商社の人たちだった。その京都支社長が東京の日本本社に栄転になるとのことで、その見送りに2人揃って京都駅に出向かれていたそうな。
菊政君はその前支社長さんに食堂車でおごってもらったばかりで終わらず、後に灘の実家の酒屋にも来られて、彼の実家の酒蔵で作っている日本酒を輸出することに相成ったのよ。
その会社が神戸に支店を出すにあたって便宜を図る代わりに、その会社からヨーロッパ各方面からのワインやウイスキーなんかの洋酒を輸入する代理店に彼の実家の会社がなるとか、とにかく、かれこれ御縁ができたようでねえ。
なんせ、シャンパンにたった5円の投資で、いい「御縁」ができたものだと、あのおじさんに何年か後にお会いして、言われたよ。
世にも安くて超効率的な投資だったヨ、って。
「それはいいですけど、あの時の割ったグラス、弁償されました?」
お聞きしたら、特にはしていない、って。
ただ、あの急行列車の乗客専務車掌が破損の証明書を食堂車のウエイターというか食堂長さんにお渡しして、それで食堂業者さんのほうは、何とかなったらしい。
それだけじゃない。これは大きな声では言えないが、とか何とか言いながら、こんな裏話を教えてくれたのね。
実はあの後前支社長さん、食堂の人にもこっそりチップを渡して、それで食堂の人ら、菊政君やおじさんらには、ものすごくサービスがよかったらしいよ。
日本でもあの頃の食堂車の従業員や列車給仕の人たちには、チップを渡す習慣があったらしくてね。
本来の給料よりもむしろ、そっち筋から入ってくる金のほうが多いなんて人もいたらしい。そりゃ、やめられんわ。それで、いい家を建てた人もおられたそうや。
ベテランの列車給仕なんて専務車掌よりはるかに年長で、知合いなんかに、おい頑張っているかって、声かけられた乗客専務車掌のほうが、逆に丁重に挨拶していたこともあったらしい。
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