駅のホームに飛び散る破片
第21話 京都駅のホームで、謎の外国人に出会う
あれは三高から帝大に進学した次の年あたりの、やっぱり秋口やった。
私ね、京都駅で、世にも不思議な光景を見ましたのや。これは堀田君にはお話していなかったけど、なんか最近、ふと思い出したものでね。
京都に寄って東京に向かう菊政宗男君をお見送りに、上りホームに行ったのよ。
彼は食堂車の調理室側の丁度隣の車両に乗ろうとされておった。
これは特別急行の「富士」やないけど、洋食堂車がついておる急行列車でした。
一部では「名士列車」とも呼ばれておったみたいやね。
その二等車に乗って、彼は東京に向かわれたの。
いかんせん寝台はもったいないというので、座席車ではあったが。
列車が駅に着いてほどなく、近くにおった外国人の紳士様の一団が、食堂車の窓を叩いて、何やらウエイターのおにいさんに尋ねておった。
英語で話しているようではあったが、どうも母国語が違うせいか、少しぎこちなさを感じた。
何が起こりだしたかと思って、とりあえず見てみようと、菊政君と一緒に彼らの様子をうかがって居りましたら、その一団の一人が、ぼくらに声をかけてきましたのや。
「アナタタチハ、ニッポンノガクセイサンデスカ?」
ってね。
「はい、こいつは京都帝大のオカハラシンゾーで、私は、慶応義塾大学のキクマサムネオと申します。私、これからこの列車で、東京に戻る途中です」
などと、彼が自己紹介してくれよった。
「ソウデスカ、ホナ、ワタシラト乾杯シマセウ」
なんか怪しげな日本語で、こっちは狐につままれたような感じや。
「コノヒトガ、東京に「シュッセ」したのヨ。その御祝で、乾杯スンネン」
「私はこの列車で、東京の慶應義塾に戻るところです」
「サヨカ。アンタラ、酒、ノメル?」
「ええ、飲めますよ」
「ホナ、チト、マッテンカ」
そしたら、気を利かせたさっきのおじさんが、ぼくらにもグラスを渡してくれたのよ。で、外国人4人とぼくら2人の6人で、乾杯や。
カクテルグラスみたいなのにおじさんが取寄せたシャンパンを注いで回ってね、それで何やら、母国の言葉で少し挨拶してくれた。
「サテ、菊政君と岡原君。君らの前途も、御裾分けで申し訳ないが、ここで祈らせてもらおう」
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