第20話 ワインは空になったけど・・・

 赤ワインの瓶はすでに空になっている。つまみはすべてなくなっている。

 あとは、チェイサーの水がそれぞれのグラスに入っているのみ。


「お話をお聞きする限り、その日は昼過ぎには京都に戻られたようですね」

 研究室の後輩の質問に、郎教授は答える。

「ええ。その日はもう大学にも寄らず、そのまま自宅に戻りました。月曜の朝に京都を出まして、1週間にわたって出張をしておったということになりますな。帰ってきたら、ちょうど土曜の昼ですから、最後の日は、「半ドン」ということですよ」

「そういうのを、半ドンとは、物は言いよう、解釈のしようですな(苦笑)」

「そこは山藤さん、帰って来たのが昼なら、昼からは自宅に戻ってあとはおやすみということであれば、間違いでもないでしょう。ひょっとその後、誰かにお会いしてまた飲んでいたなんてところかな、この大先生なら」

「じゃあ堀田君、それは「残業」ってところかな?」

「まあ、そんなところでしょう」

「さっきから好きに私の行動を論評なさっているが、実は諸君、まさに、その日はその通りの行動を致しておりました(苦笑)。まあ、これだけ動けばあとは自宅の近くの居酒屋で一杯、一人で、飲みましたよ。動きながら飲み食いしていたのが、止まっている場所で飲み食いに変わったってことでしょうかね、食堂車もよろしいけど、近所の居酒屋で飲むほうが、気が楽で、よろしいわ。せや。ワインはもうなくなりましたから、ここでひとつ、もう一度ビールでも軽く飲みましょう」


 否応言わせる間もなく、教授は生のビールジョッキを3つ頼んだ。当時のジョッキは最近のジョッキよりいささか大きい。中ジョッキと言っても、今でいえば大ジョッキ程度の大きさがあった。ワインをこれだけ飲んでも、さらにまた、ビール。しかし、話がはずんでいるから、酔いも少しずつ冷めており、このくらいならまだ飲めそうなところ。

 ビールがやって来た。3人の紳士は改めて乾杯し、各々軽めに一口飲む。


「まあここはひとつ、デザート的に乾杯のお話でもしておきましょうか。雷鳥号のアイスクリームみたいな、お話を一つ。私が学生の頃、京都駅で見かけた話をね」

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