第18話 メニューを見るだけで、つまみになりますよ。

 大陸浪人風の名誉教授が、自他のグラスに赤ワインの残りを注ぎ回った。

 その間、山藤氏が気を利かせてウエイターにチェイサーの水を所望していた。

 その水は、ほどなくテーブルにやって来た。

 

 岡原氏は、京都に戻ってくる際の「雷鳥」号の話を始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 金沢で一泊しましてな、帰りは、金沢発の「雷鳥」に乗って帰って参りました。

 金沢を出て間もなく、営業が開始されまして、早速のところ、乗っていたグリーン車の隣の食堂車に参りました。朝はモーニング程度しか食べておりませんから、まあ、ちょうどよろしかろうということでしてね。


 まずは、ビールを頼みました。

 ウエイトレスのおねえさんが気を利かせて、おつまみは何になさいますかと言われましたけど、こう見えて、若い頃ならそりゃあもう、なんでもつまみと称して頼みまくったところですけど、さすがにこの年にもなればそういうのは無理やから、まずは、ビールを頼むだけ頼んで、それを飲みながらメニューをつまみ代わりにして、かれこれ見ておりました。


 そうそう、今日最初に富士号の話をしたときに申し上げましたけど、覚えておいででしょうか、諸君。

 メニューの品を頼んでしまえば金がかかりますけど、メニューを見るだけなら、タダですよ。タダほど安いものは、ありません。

 見ておるだけでも、腹はそれなりに膨れるとまでは言いませんけど、程よく、気分良くなるものなのであります。


 そうですな、こちらの北陸本線筋は、結構、こってりとしたメニューと言いますか、ステーキとか、そういうものが充実しているように見えました。そういえばこのところ食堂車でビフテキ、すなわちビーフステーキを食べておりませんな。

 この時も含め、食べる機会があまりなくて、結局、注文もせずじまいでした。

 いくらなんでも、昼前からビフテキはちょっと、きついかもしれん。

 まあ、食堂車に行くたびにビフテキにワインというのも、飽きますわ。

 ビールなんかなら、ビフテキよりはむしろコールミート、言うなら、ローストビーフのほうが、つまみにはぴったりのように思えますな。サラダやパンなんかと、一緒に食べられますからね。

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