第17話 大陸浪人?、碓氷峠を超えた!の巻

 かくして私、しばらくの間睡眠をとりまして、というか酒飲んで寝ていただけですけれども(苦笑)、目覚めたら日本海が車窓に広がっておりまして、あとはぼちぼち、リクライニングの椅子に身をゆだねて、夕方に金沢に参りました。

 まあ、カレーまで食べておりませんで、ちょうどいいくらいになって夕方を迎えられましたから、あとは、知人と金沢でうまいものを食って飲んで、楽しく過ごせましたわ。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「しかし、峠超えに食堂車、しかも中華料理をつまみにビールとは、なんだか、戦前の大陸浪人みたいなお話で。それこそ鮮鉄(朝鮮総督府鉄道)や満鉄(南満州鉄道)の急行列車あたりでやれそうな組合せですな。岡原大先生にぴったりな感じですよ、風貌的にも」

「堀田君、そう無茶言いなさんなや(苦笑)。うちの母校(陸軍士官学校)あたりの者ではちょっと務まらんが、軍人経験なしで研究者として世知にたけておられる岡原教授ともあろう御方なら、それこそ、陸軍中野学校の教官なんか適任であらせられたでしょう」

「そ、それはしかし、山藤さんのほうが、無茶苦茶ですよ(苦笑)。大先生が教官ということは、あの研究室にいた私や石村君は、陸軍中野学校の学生ってことになりますか?」

「それなら石村さんなんか、雰囲気的にはぴったりかもしれん。とはいえ、如何にもインテリに見える石村さんよりは、場所にもよるが堀田君のほうが適任な場所も多々あろう」

「そういう任務って、風貌で割当されるものでしょうかね?」

「そりゃあ大事だろう。単なる武器を持つ機械替わりではなかろうがな」

 ここで、年長の名誉教授が機嫌よさそうに一言。現に、酒も入っている。

「いやあ、私は陸軍中野学校の教官よりも大陸浪人のほうが気楽でよさそうや」

 これに対して、研究室の後輩になる堀田氏が一言。

「そうですね、助教授時代からそうですがその丸メガネに、ついでに無精ひげをはやされたら、もうぴったりってところでしょう。大陸の人からは、謎の日本人として恐れられるやら、尊敬されるやら、はたまた狙われるやら。そこはわかりませんけど(苦笑)」


 ワインは少しばかり残っている。

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