値上げ前。今時の食堂車を堪能せり! 前編

第8話 値上げ前に長旅を済ませておこう!

「今時の新幹線の食堂車は、どうでしょうかね。大先生の乗られた伊勢参り快速の和食堂車みたいに気軽に利用できているとは思われますが、一方で、昔の「富士」の洋食堂車のような雰囲気も少しばかりは残っているような」

「堀田君の御指摘、確かにそうじゃ。しかし今時、その両者を別建てで成立させられるだけのゆとり、あるかな? 私個人としては伊勢参りの和食堂車のような雰囲気のほうが好きですが、ドレスコードのあるレストランよろしき食堂車もあっていいのではないかなとも思いますがね。大先生、おいかがでしょう?」

「まあこれが、「民主主義」の世の中の食堂車ってところでしょう(苦笑)」

 岡原名誉教授の弁に、研究室の後輩が一言。

「それ、石原裕次郎の出た「風速40メートル」の悪徳社長の言葉みたいですね」

 この映画を岡山市表町のはずれ千日前の映画館で観た山藤氏も、一言。

「いやいや堀田君、そんな「難しい」話でもなかろう(苦笑)」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 1976(昭和51)年の秋、11月20日に、国鉄はそれまでにないほどの運賃及び各種料金の大幅値上げを実施した。それは国鉄の財政を立て直すためではあったが、その反動はあまりに大きかった。

 他の交通機関、長距離であれば飛行機、近距離であれば並行する私鉄各社、さらに後には夜行の高速バスなども、ライバルとして次々と現れてこれまで国鉄の列車を利用していた客をさらっていった。

 そのエポックメイキングとなる値上げの前、京都大学工学部教授であった岡原氏は、約1週間にわたる長期出張を実施していたのである。


 岡原氏は、その長期出張時の話を始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 私はこの春から岡山に週3日程泊りで通うことに相成りましたが、その打合せを兼ねて、昨年秋に岡山に参ったのよ。

 国鉄が大値上げしたでしょうが、その前に、一つしっかり乗っておこうというのもありまして。岡山まで来て打合せの後、山陰に行ってみようと思い立ったわけ。

 実はその翌日に東京への出張もありましてね。どうせなら、京都から岡山入りしたその足で山陰に寄って、それから寝台列車で東京入りしようと思いました。

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