第2話 先生って遭遇しがち

 「あー、いるなって思うけど嫌な感じはしないんだよ。学校は多いよね」

 友達のTは、こともなげにサラリ、と話す。もうほんとに、サラリって効果音がしそうなほどに。

 教員のTいわく、同じ学校に3年位はいるので「おなじみの」ゼロさんがいるそうだ。ええ、霊って響きが怖いからレイ、0=ゼロさん呼びしてます。

 担任をしている教室でひとり、放課後に仕事をしていると現れるらしい。

 「なんでわかるの?どんな感じで…」

 怖がりなくせに聞きたい私。

 「くっきりみえるわけじゃないんだよ。ほら、廊下を人が通ったな~て気配あるさーね。あんな感じかな。でね、シルエットを感じるからガタイのいい男の人ってわかる」

 なんと。

 ゼロさんのマッチョぶりまで分かるのか。

 隣のクラスの先生も、同じ時間に仕事をしていることが多いので試しに聞いてみたらしい。

 「そしたらさ、S先生も『ああ~、ちょっと大きい感じの人でしょ』だって」

 なんと!

 ねぇそれって教員あるあるなの?それとも沖縄の人って霊感強いよね説を裏付けてんの?

 「怖くないの?」

 インタビュアーとしては何の工夫もないが聞くしかあるまい。阿川佐和子さんだってきっと聞く。

 「うーん。視線を感じたりもするし、あんまりいい気はしないけど。仕事しないといけないしね。それに、悪い意識でそこにいる様子じゃないから」

 達観というか何というか。

 ゼロ氏の内面的な良し悪し関係なく、いるだけでもう怖いんだが。


 Tは学校の外でもゼロさん遭遇経験があるので、聞くだけで体感温度がリアルに下がる私と違って肝が据わっている。

 「この前は残業して帰り道に大雨だったわけさ。暗い夜道を運転してたら、真ん中の中央分離帯?草ボーボーでしょ。あそこに青いドレスの女の人が立ってたってば。ガイジンぽかったような。最初さ、普通に基地のアメリカ人かねと思ったもん。ほら、ちょうどそこ」

 Tが運転する車の助手席にいた私は、指さす方向を思わず見つめた。

 ヤシの木の下は雑草だらけで、トンネルを抜けてすぐだから向こう側に渡りたくて佇む場所としては不自然ではある。

 「え?でもさ、ほんとに人だったんじゃないの?大雨だから、まあ、変だけど…」

 にわかに信じられない私が聞くと、Tは見え方を説明しようとしているのか、青いドレスを思い出しているのか一瞬だけ首をひねる。

 「うーん、なんというか。生きてないって分かるよ」

 怖がらせようとしてないんだよね、T先生。

 またもサラリと言われたセリフが、だいぶ背筋をザラリと撫で上げてきた。

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