第3話 怖がりな私も実は
怖がりの私としては幸い、ゼロさん、つまり霊の存在を見ることはできないのだけど
「いるな」
という気配に敏感な時期があった。
高校生くらいから感じ始め、20代の頃が最も強かった。
意識すると、敏感さがアップする気がして
「気のせいだ」
と自分に言い聞かせていた。
ほら、誰だって
「気味が悪いな」
くらいは感じるもんね、と。私が怖がりだからだよ、妄想癖?想像力?そういうの強いからかも。
ところが、いかにもおばけいますぜ的な古い洋館や病院ではなく、意外な場所で突如としてゼロさんレーダーが動くことがあった。
東京で働いていた頃。
吉祥寺駅にあった【〇ザワヤ】でかわいい生地探しにワクワクしていたのに、レーダーが動く。
入口から妙だな、と感じ始めてエスカレーターに乗ると重くなり、カーテンコーナーは特に感じた。
スマホのカメラでフィルターを違うものにした感じというか、微妙に全体の色が変わって見えたのだ。
「でも私、ゼロさん本体は見えなくて良かったなー」
と懸命にポジティブに考えようとし、やはり気になったので後で友達に聞くと、当時は有名な心霊スポットであったらしい。
とはいえ品ぞろえ抜群の楽しいスポットだったので、分かってからも何度か行った。ゼロさんに生地選びを邪魔されるわけじゃなし。
その後、改装したり移転したりので、気味悪がらずに行ってくださいませ。現在の場所ではないしね。
また、大学院生の頃。
夜まで研究室にいて、帰りが遅くなる日が多かった。
帰り道に何気なく見上げた、とある料亭の建物。照明もないのに、そこだけ建物全体がぼわんと黄色っぽくモヤとっ見えた。
なんか、強いのいそう。ラスボスの館風。
その料亭でバイトをしていた友達に聞いてみた。もちろん、友達を怖がらせたくはないので辞めてからである。
すると、友達は目を丸くして
「なんで知ってるの?あそこでバイトしたことあったっけ?」
と言う。
「仲居さんたちに口止めされてたんだけどさ、客商売だからオカルト話にしないでって」
いわく、
「座敷に入る時は壁のあちら側に挨拶をするように、て “そういうのが分かる” ベテランの仲居さんが言うんだよね。ほんとに部屋ごとに何人かいるみたいで、無礼をすると怖いんだって。何か壊れたり落ちてきたり」
明るい友達は
「アタシは見えないから、おばちゃん達が誰もいない方向にお辞儀してる様子がもう怖かったんだよね。ていうか、おばけの仲居さんもいるってことか」
と笑っていたが、私なら怖くて辞めますそのバイト。
その友達を含めた数人と女子旅をした時には、
「ね、ジャスミン。ここって、”いる”かな?」
とゼロさんの存在を聞かれたりもした。
熱海の古い旅館でレーダーはビンビンだったけれど、せっかくの女子旅に水を差す気はないので
「大丈夫よー」
と答えた。ちなみに前の話で出たT先生も一緒だったので、ふたりで
「あのドアと、こっからの窓の外が特に強いね」
と密かに確認はした。妙なもので、人が感じたゼロさん話は怖いのだが、自分で感じる分にはそこまでは怖くなかった。
40代になった今の私はレーダーはほぼ消えたと信じている。
子も産んだので何ならレーダーは胎盤と一緒に出て行ったと思うことにしている。
実際、だいぶというかほぼ分からなくなった。
それにしても、フシギなものだ。
ゼロさんが実際にいるかどうか、いたからってどうなんだ、お互い邪魔せずご自由にと思うだけである。そんなに深掘りして考える気もないし、そこまで興味はない。
霊感どうのよりも、おばちゃんになって気になるのは、景色がきれいだとか映画に感動するとか「通常の感性レーダー」が鈍っていることだ。
書いたり読んだりしていたら、このレーダーは失くさずに済むだろうか。
胎盤と一緒に出ていないことを祈る。
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