第23話 ある名言をもとに、選挙結果から導かれるもの

「ところで君、後藤新平閣下のお言葉、御存知か?」

「後藤新平? あの大風呂敷の方ですね。どのお言葉でしょう?」

「それをさらに広めたのは、君もよくご存知の、野球の御仁じゃ」

「野村克也さんですな。この話の流れからすれば、あれかと」

「その「あれ」とは何なら。岡田彰布の「あれ」ではないぞ」

「その「あれ」ではなく、この言葉でしょ。財を残すは・・・」


 森川氏は、彼の指摘した言葉を引合いに出し、かの若者(と言っても今生で50歳を超えている)に持論を展開する。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 そうじゃ。


財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする。


 野村克也氏は、後藤新平閣下のこの言葉を、よく若い人ら、それこそ、あんたらくらいの選手諸君に、かねて述べておられたようですな。


 さて、何でわしがこの言葉を引合いに出したか、わかるか?

 あんたの先輩、常木三蔵さんという方についてじゃ。


 前回の選挙で、常木候補は厳密には5000票より幾分少なかったものの、おおむね5000票を獲得して当選されたろう。

 今回の選挙ではどうか?

 他の候補者は軒並み現職で出馬し、票の増減はともあれ、当選されている。

 その票の多くが前回その候補に投じられたものであることはほぼ間違いなかろう。


 さて、そこから考えてみようではないか。

 他の当選の候補者は、前回の票を基礎に今回の選挙を戦われた。

 特に上位候補者各位は、そうであろう。

 しかし、前回11人中4位当選の常木候補は、今回引退される。

 それでは、前回投じられた5000票は、どこに行くであろうかね?


 確かに、常木氏は後継として、国会議員の秘書を体験した元国家公務員の若い人を完全な後継者として推した。

 その人はどうじゃ、3500票近くをとって中位程度で当選されましたな。

 それから、同じ選挙区でも常木氏の地元よりはるか西の地区で出られた女性候補さんじゃが、まあ、女性の年齢を指摘するのはいささか野暮じゃが、あんたより1歳下で、あんたの父方のおばあさんが亡くなられたときより年上の方ってことになるのであろう、その方、トップ当選されたがな。

 その人は地元でも票を伸ばし、常木票においても幾分上乗せはあった。

 なんだかんだで、女性票もかなり集まったことであろう。

 その一方で、その地域の現職や元職の候補者各位が割を食って、落選されたな。

 他にも、県政や国政レベルでは共闘関係にある労組の候補者がおられたろう。その方にも、明らかに幾分の票が行ったであろうことが見受けられる。


 これは、あんたはもちろん今生でお会いしておらんだろうが、よつ葉園の初代園長の古京友三郎さんが、かように分析されておった。

 わしを通して、あんたに伝えよとのことじゃ。

 どうやらこの件については、あんたも同じような見立てをされとるようじゃな。

 あたかも、古京さんと申合わせでもされたかのように、な。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 さて米河君、この件を引合いに出した理由、もうお分かりいただけたであろう。

 そこからは、君自身の意見を踏まえ、述べられたい。

 これは決して、単なる選挙の票読みコンテストではないぞ。

 これこそが、争点たるべき論点に大きくかかわる話であるからな。

 さあ、述べてみたまえ。

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