第12話 対立軸の発生とその行方

 そして、彼岸の日。

 この日、WBC日本代表は準決勝でメキシコ相手にサヨナラ勝ち。

 否応なく、決勝への期待は最高潮に達している。

 しかも、相手は野球の本場・アメリカ合衆国である。

 この点については、もうこれ以上何か言うこともあるまい。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 米河氏は、この日朝から外出もせず、野球を見ていた。

 昼前まできっちりと見終えた彼は、何というでもなく外に出た。

 そして、餃子のチェーン店でビールを飲みつつ餃子をつまんだ。

 程よく飲んだところで、締めに、激辛カレーを食べた。

 これで、明日朝まで持つということか。

 自宅に戻ると、今度は、ウイスキーをロックですする。


 程よく酔えた彼は、再び、機嫌よく寝床についた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 明けて、3月22日未明。

 対手の老紳士が、再び、やって来た。


「御機嫌麗しきところ相済まないが、米河さん、よろしくお願いする」


 かなり早い時間から横になっていたためか、酒はすでに抜けている。

 どうやら彼は、酒が抜けるのはかなり早い体質のようである。


「わかりました。それでは、参りましょう。さて、森川先生、争点の整理ということでありますが、何か、御提案がおありでしょうか?」

「その点について、ひとまず、提案しよう」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 まず、貴殿と私の接点があるのは、ほかでもない、養護施設という場所。

 その養護施設が、よつ葉園であった。


 私は言うなら、その施設の創立者のうちの一。

 貴殿は、その施設に入所児童として幼少期を過ごした受益者の一。

 すべては、その接点から、はじまっておる。こんなことを述べても今さら何ということもなかろうが、それが唯一と申してよい接点である。


 さて、どこに貴殿と私の対立軸が生まれたか。

 これはもう、はっきりしておる。

 創立者として職員側にいるか、受益者として児童側にいるか。

 その対立軸は、今もそのまま維持された状態になっとる。

 それが証拠に、貴殿の書かれておる文章は基本的に、元とはいえ児童側に立ったものであることは明白である。一見、職員が輪を描いていておっても、そこは決してぶれておらん。


 この対立軸は、良くも悪くも、両者を幸福にも不幸にも導きかねぬ要素を孕んでおると思われるが、いかがかな?


~「お見立ての通りと思料します」(米河氏)


 では、まず第一の争点としては、養護施設という場所において、職員側と児童側の対立軸はなぜ発生するのか、それはお互いにとってどのような影響をそれぞれ与えうるのかについて。

 すなわち、養護施設における対立軸から生れる諸般の問題点。

 これを、双方の立場より論じねばならん。


 米河清治君、おいかがであるか?

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