第11話 争点整理以前の問題 続
老紳士は、青年将校を自称する50代の小説家に答える。
貴殿が今しがた仰せのルールとやらの素案であるが、私も、それにはおおむね賛成する。なんと申しても、公開すべきであるという、その点を最初に持ち出されたが、それは何じゃ、この世界の閉鎖性と申すか、その点に対する貴殿からのアンチテーゼと申そうか、そういうものを感じる。
施設内でただただ何となくみんなで群れて生きて、時間が来たらぼちぼち出ていけばいい、そんな程度の了見で、わしはあのよつ葉園を運営していたわけでは決して、ない。
よって、1点目については認める。
2点目については、言わずもがなであろう。
後世から過去を、あるいは過去の基準で現在を云々するのは、反則であろう。
そこを、価値判断をまぶして分かったような口を利く左巻きとやらもおるが、あんたも、そういうのは虫唾が走るほど嫌っておるらしいな。
それはともかく、その点についても、認めます。
さて、3点目である。
これはもう、貴殿も御指摘であるが、相手に敬意を払うのは、当然かどうかなど論ずるまでもないことであるから、もちろん認めましょう。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
「それでは、これで、「最終戦争」と銘打たれた論争の基本ルールについては、この三点を守るということで、よろしいでしょうか?」
米河氏の問いに、森川氏も同意する。
「それでよろしかろう。それにしても、うまいことまとめられたものじゃ。それでは、争点整理に入りたいが、まずもって、何を論ずるかですな」
「ええ。ただ、これは今すぐにすぐというわけにもいかないので、少しお時間を頂ければと存じます」
「今度は、こちらからご提案いたしたく存ずる。まずは、明日朝、出向きたいと思うが、貴殿のほうは、おいかがか?」
「かまいません。先生側のご提案をもとに、さっそく検討したく存じます」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
夜は、明けかかっている。
時間帯は、午前6時台前半。
彼らはここで、いったん、論争を辞め、現世と来世のそれぞれの居場所へと去っていく。
やがて、世は明けた。
この日は、2023年3月21日。春分の日。
暑さ寒さにキリをつける日である。
やがて暑くなり、そのキリが着く頃には、おおむね、この戦争も終わっているであろう。
その先には、自分にとって、どんな世界が展開しているのであろうか?
米河氏は、そんなことを思いながら、朝のルーティンを済ませた。
この日は、WBC日本代表がメキシコと対戦する準決勝。
アメリカの球場からの野球の生中継を、彼は、昼までテレビで観戦した。その試合内容・結果については、皆さんご存じのとおりであるから、ここでは記さない。
かくして、彼岸の日は過ぎていった。
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