第9話 まずは、争点整理から。

 それでは米河君、あなたもお忙しいであろうし、争点をさらに明確にする必要もあろう。そこで、私からの提案である。

 この5月初旬の連休までは、原則として休戦としないかね。

 争点整理のためには出向くが、それ以外では、出向かない。

 あなたは、現世の仕事をしっかりとされるがよろしい。

 その間に、何か気づかれることもありましょう。

 おいかがかな?


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 森川一郎氏は、戦後生まれの両親から生れた、しかし当年とって50歳を超えた米河清治氏に提案した。

 いささか敵より塩を送られているような感もあるが、そこで別につむじを曲げるほどのことも、あるまい。

 そう判断した米河氏は、この提案をあっさりと飲んだ。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 それは当方にとっても、十二分にありがたい御提案であります。

 喜んで、お受けいたしましょう。

 争点を整理するということでありますれば、いつでもお越し願います。と申しますか、今日の一連のやり取りでも、争点はいくつか見えたのではないかと。

 それでは森川先生、いや、森川さん。

 今年こそ、悔いの残らぬ論戦を行おうではありませんか。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 かくして、この「最終戦争」の開戦は、しばらく延期されることとなった。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 建物の外は、すでに明るくなりつつある。

 もっともこの部屋の窓の向こうは建物である。

 なので、明るくなったことが実感できないような位置にある。

 もっともそれゆえに、こもって仕事するには重宝するのであるが。

 

 米河氏はその日の朝、一度外に出向いたものの、そのあと戻って、しばらくの間その部屋で仕事にいそしみ、昼前にチェックアウトしてホテルを出た。

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