第8話 言葉の欺瞞を暴く青年将校 3
段々と勢いがついてきたことは、傍目に人がいれば明らかにそう取られるだけの状況となってきた。50代の「青年将校」はいよいよ、渾身の弁を述べ始める。
「そうです。大体な、「子どもに託して」とか何とか、そんな、仮定の条件を付けた気休めなんかを、てめえら第三者風情が何生意気に出張って抜かしてけつかっとるのじゃ、責任者、出てきさらせ! と、この際であるから申上げます」
その責任者のある意味「総元締」ともいうべき人物は、目の前にいる。
総元締の役を負った老人は、少し間をおいて、静かに述べた。
その表情には、怒りも悲しみもない。淡々としたものである。
「今の弁、確かに、わしが至らなかった故にこうして出ておることは間違いない。しかし、君、家制度とか何とかいうよりも、家族とか家庭とか仲間とか、そういうものをもう少し、な、もう少しでよいから、大事にせいとは言わないが、心を配っても、じっくりと見てやっても、よいのではないか?」
少したしなめにかかる老紳士の弁を、青年将校は激情を秘めつつ反撃に転ず。
「それがどうされた?! 余計な世話とはそのような弁を申すのであります。そういえば、おられたな、私がよつ葉園にいた頃に。あのZ君にダメ出しばかりされておった職員さんが。個人的には善良な人であると思うが、貴殿の地の後進である職員としてのあの人物については、私は決して評価しない。そんな人物が述べる、寂しいとか何とか、そんなへっぽこな情緒論など、問答には値せぬ!」
青年将校は、さらに攻め込む。
老紳士は、その場の荒れを抑えるかのごとく、静かに答えた。
「そうであろうな。もちろん、私はそんな論点で君に対峙するつもりなどない。であるからこそ、もはや、わしが後世の人らに「託す」わけにはいかんのである」
かの青年将校、ここで少し荒ぶる弁を抑え始めた。かの弁は単なる怒りではなく一種のパフォーマンスであることは、対手の老紳士もすでに織込済。
もはや50代の「青年」もまた、静かに述べる。
「だからこそ、私のもとに直接出向かれた次第でありますね。責任者どころか、総元締たる森川一郎さんのお出ましとなれば、私も、腹をくくって対峙いたす所存であります」
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