第7話 言葉の欺瞞を暴く青年将校 2

「さて、これは反則発言かもしれんが、答えてみておくれ。貴殿がもし、私と同じ時代に同じ条件下で、生きたとする。果たして、私と同じだけのことができたと、自信まで持たなくてもよいが、言い切れるかな?」


 森川氏の弁に、米河氏は即答した。

「自信はもちろんありませんが、おそらく、違う道に進んだことでしょう。なにはともあれ、自らを高め、世に出ていっぱしの仕事をせねばなりませんからね。自分のできないことを子どもに託してとか、家制度かなんか知らんが、あんな出来損ないの社会主義もどきをさらに劣化させたようなところに寄っかかった寝言を白昼から堂々とノタマウ阿呆どもと同列な発想の持合せは、私にはありません!」


 森川氏、呆れつつも、相手の弁には一定の理解を示す。

「そうかな(苦笑)。わしなんかはあんたの論法からすれば、出来損ないの社会主義もどきをイワシの頭よろしく信心しておる阿呆なのであろうかな。じゃが、人がいっぱしのことをしていこうと立向かわんとする折には、そんな小賢しいごまかしは確かに、何の役にも立たん。思いやりはまだ人を救う余地もあるが、きれいごとでは飯も食えんし救いにも気休めにさえもならんわな」


 米河氏の返答に、いささか熱が帯び始めている。

「当然ですよ。しかしながら、そんな姑息な弁を述べておった阿呆な先人を、私が見聞きした限りでも複数人、あなたのお作りになった枠組みの中に、確かにおられましたね。ま、そんな人たちの弁に耳を傾ける暇があったら、プロ野球関係者の本でも読んだほうが、よほど、人生の糧になりますよ」


 いささか呆れつつも、森川氏が返答する。

「そこで、「職業」野球かな。あんたのかねて述べておる人生観、確かに、わしもかれこれ分析してみたが、そこから来ておることは、確かじゃ。わしが若い頃、と言っても成人して後じゃが、全国中等学校野球大会、今の高校野球が始まって、それから六大学野球、職業野球と、あの競技は進歩を遂げておる。野球が好きで楽しんでといったレベルの話ではすまず、それが「仕事」になっていったわけじゃ。そうなれば、あんたのやっとる物書き業とも、何ら変わらんことになるわな」


 

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