いい-わけ【言い訳/飯分け】
瘴気領域@漫画化してます
「いいわけ」の本当の語源
ついつい口にしてしまいがちな「いいわけ」。
「いいわけするな!」「いいわけなんてみっともない!」なんて怒られた経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
「なんでそんなことをしたのか理由を話せ」って聞かれたから答えたのに、「いいわけするな!」って返されると「じゃあどうしたらええねん」って途方に暮れますよね(笑)
さて、今回はそんな「いいわけ」にまつわる雑学です。
みなさんは、「いいわけ」を漢字で書けと言われたら、どのようにしますか?
おそらく、ほとんどの人は「言い訳」と表記すると思います。
他の表記なんてないだろうと思う方がほとんどでしょう。
しかし、長野県や山梨県、あるいは東北地方の山村などで、おじいちゃんおばあちゃんに書いてもらうと、こういう表記をすることが多いのです。
【飯分け】
飯と書いて「いい」と読むのはどの程度一般的なのでしょう?
干したお米で作った保存食を「干し飯(ほしいい)」といいますが、それと同じ読みですね。蒸したお米のことを「強飯(こわいい)」、現代の炊飯器などで炊いたものを「姫飯(ひめいい)」と言ったりします。
私が「飯」を「いい」と読むと知ったのは、小学校の国語の教科書だったでしょうか。戦中か戦後直後が舞台で、主人公が「干し飯(ほしいい)」を食べていたのです。
子ども心に、「あんまりおいしそうじゃないなあ」と思ったのを覚えています。
話が逸れました。
【飯分け】の話に戻りましょう。
この【飯分け】、じつは【言い訳】と基本的な語義や用法に大きな違いはありません。
何か失敗をした相手がぐずぐずと理屈を言ったときに「この【飯分け】もんが!」などと言って叱るのです。おじいちゃんやおばあちゃんに叱られた経験のある方は、この言い回しにピンと来る方もいるかもしれませんね。
しかし、【言い訳】とは決定的に違う用法も存在します。
例えばあなたが――そうだ、知り合いの借金の連帯保証人になろうとしていたとしましょう。そうすると、おばあちゃんはこんなふうに怒るのです。
「この【飯分け】もんが! そたらこっしたら、地獄に落ちっど!」
こうした用法は、【言い訳】では耳にしませんね。
じつはこの【飯分け】、【言い訳】とは発祥がまるで異なる同音異義語なのです。
だいぶもったいつけてしまいましたが、そろそろ【飯分け】について本格的に解説しましょう。
本来の【飯分け】は、文字通り「ご飯を分けること」という意味でした。
生産力の乏しい、貧しい山村では、家長や長男が優先的に食事を与えられ、次男三男、女の子はじゅうぶんに食べさせてもらえないことが珍しくありませんでした。
これだけ聞くと、現代に生きる我々は「なんて前時代的で差別的な風習なんだ!」と怒るかもしれません。また、それは現代人としてまっとうな倫理観だと思います。
しかし、それは飽食の時代に生きているから言えることです。
少し、思考実験をしてみましょう。
いまは真冬です。
外は雪に閉ざされています。
畑の収穫はもちろん、狩りにだって出られません。
その冬の雪は深く、春までは備蓄でやり過ごすしかありません。
あなたの家族は5人。
あなたはその家長です。
食料は4人がぎりぎり冬を越せる分しかありません。
あなたは泣く泣く、末の娘を諦め、長男と次男だけに食事を与えることにしました。
自分が犠牲になることも考えましたが、それでは冬が明けても一家全員が飢え死ぬだけだからです。
そんなとき、息子たちがこっそり末娘にご飯を分けているのを見てしまったら、きっとこう叱りつけるでしょう。
「この【飯分け】もんが! そたらこっしたら、地獄に落ちっど!」
これが【飯分け】の語源です。
文献を辿ると昭和前期までは記載が認められますが、徐々に【言い訳】との混用が進み、いまではほとんど見られなくなりました。
新聞などで【飯分け】と表記したら、間違いなく校正さんに弾かれるでしょうね(笑)
さて、いかがだったでしょうか?
さっき思いついたことを適当に書いただけなんですが、楽しんでいただけたでしょうか?
えっ、口からでまかせだったのかって!?
いやだなあ、これは創作ですよ。ジョークってやつで……そんなムキになられても……。
あっ、痛いっ! 痛いっ!
石を投げないでくださいって! シャレにならないですって!
えっ、なんですって?
「つまらん言い訳すんな!」
おあとがよろしいようで。
(お囃子とともに緞帳が下りる)
いい-わけ【言い訳/飯分け】 瘴気領域@漫画化してます @wantan_tabetai
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