――祓い師【弐】
早朝――。
車に乗り込み、久方振りの遠出に助手席から少し落ち着かない空気が漂って来る。
「ドライブなんて久しぶりねー。お昼は景色の良いところで取らない? 温泉なんかも良さそうよねー」
完全に休日を楽しむ近しい人間の発言だ。晴明は早々に訂正した。
「貴人。昨日も言いましたが遊びに行くのではありません」
「分かってるわよ。まったく真面目なんだから……。移動中くらいデート気分に浸らせてよ」
そのデートの相手は誰なのか……行きつく答えに不穏なものを感じた晴明は考えるのを放棄した。
「――彼は……まだ寝ているようですね」
一瞬視線を向けた先。貴人の膝の上で蜷局を巻いてぴくりとも動かない存在がある。
その身体は白く、光の加減で時折黄色や金色に輝き揺れ動いているように見える。
蜷局を解けば全長二メートルほどになるその姿は蛇であった。
今日のように肌寒い日は殆ど動かずこうして眠っていることが多い。
それでも連れて来た訳は、しっかり仕事の役に立つからだ。
「出る時は返事したから大丈夫よ。そろそろ覚醒するんじゃないかしらねー」
貴人の言葉通り、蜷局を巻いている身体からぽつぽつと橙色に近い炎が出始める。目覚める予兆だ。
白い身体から出る炎は細長い全身をゆっくり埋めていく。しかも全く熱くないのが不思議だ。
そして先端についた二つの目がぱっくりと縦に割れると黒目がきょろりと覗いた。
「やっと起きたわね、
「……、貴人か……」
蛇から発せられた声はまだ眠そうに微睡を帯びている。
徐に膝の上で身体をするりと滑らせると、またぴたりと止まった。
「あんた…………下穿き忘れたのか?」
瞬間、貴人は固まった。言っている意味は分かるがそうじゃない。
「晴明の前で何言ってるの!? 身体で確かめるんじゃなくてその
言われた通りに頭を持ち上げて捻り、周囲をぐるりと見回す騰蛇。
そして「ああ」と呟きが零れた。
「今日は短い布を巻いてるのか……寒くないのか?」
「……」
駄目だ。スカート、正確にはワンピースだと説明する気力も起きない。
もうずっと眠ってればいいのに……と頬を引きつらせる貴人の心中など推し量れるはずもない騰蛇は細い舌をちろりと出して、ハンドルを握る晴明にその眼を向けた。
「貴人から仕事の内容は聞いた。今回は何日の予定だ?」
「日帰りの予定です」
「かなり厄介なんだろう? 三日は見ておくべきじゃないのか」
視線を前に向けたまま騰蛇の懸念する声に淡々と答える。
「今回は早急に対処する必要があります。慎重になり過ぎて取り返しがつかなくなっては困る……今も犠牲者が出ている可能性があるので」
「人払いしてあるんじゃないのか?」
「人間は駄目と言われると逆らいたくなる生き物なんですよ」
立ち入り禁止の看板を立てたところで怪異の噂が広まれば好奇心だけでお構いなしに踏み入って来る命知らずは少なからずいる。
そのことに気付いた騰蛇は納得したのかそのまま口を閉ざした。
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