いいわけ

洞貝 渉

いいわけ

 仕方ない、と自分に言い聞かせる。

 たくさん動いたし、ここ一週間ほどは甘いものを我慢していた。たまにはご褒美があったっていいではないか。いや、むしろご褒美なしでは、かえってストレスがかかって太る。

 そう、これは仕方のないことなんだ。急がば回れとも言うし。重要なのは継続すること。継続するためにはストレスを溜めないこと。

 つまり期間限定のケーキを見つけてうっかり買ってしまったのも、ダイエット生活をする上で、長い目で見れば必要なことだったと言える、はず。


 ケーキによく合う紅茶を淹れよう。

 この紅茶には、あのブランデーがよく合う。でも、さすがに酒はダメだろう。あのブランデーは確かにおいしいけれど、酒はよくない。

 でも逆に考えてみたらどうだろう。

 今日はせっかくおいしくケーキを食べようと決めたのに、飲み物でケチが付いてしまっては勿体なくはないだろうか。勿体ない、という思いはきっと大きなストレスになる。それはいけない。そう、これは仕方ないことなんだ。なんたって今日は自分にご褒美をあげるんだから。


 仕方ない。

 アルコールが入ってしまったなら、もうまともに運動なんかできるわけがない。だから、今日はジョギングはパスだ。

 大丈夫、今日だけだから。

 この一週間、私は頑張った。一日くらい平気平気。



 それにしても、久し振りの甘味とアルコールで気分がいい。

 ジョギングは無理でも、散歩くらいならしてもいいかもしれない。というか、散歩したい。

 ふわふわした足取りで、幸せに満たされながら近所の公園をのんびり歩く。

 だけど、徐々にすれちがう人たちの足の細さや二の腕の引き締まり、腹回りのスリムさが目につきはじめる。

 仕方ないじゃないか。今日は、自分にご褒美の日にしたんだから。


 仕方ない、仕方ない。

 明日から頑張るんだから。


 誰に対してなのかわからないいいわけを胸の内で繰り返しながら、小さな幸せを楽しんだ。

 

 

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