第15話

(あぁ、やっと心から笑える)


(いなくなってくれて嬉しい。これで俺は自由だ)


「……そう思ってたんだが」

「ん?」

横になっているアレストの隣で布団に潜り込む。

「あんたたちが来て心が温まったよ。ありがとう」

「いや、俺こそ。まともな人間……知性体に会えてホッとしている。1年間、ずっと怯えて暮らしていたからな」

「え?あんたもそうなのか。俺も。知り合い皆異形化しちまって、結界はってここに閉じこもってたんだ」

レウォが口角を上げて笑う。

「アレスト、か。あんた良い男だね」

「え?」

「だから良い番を持つだろう。それで、子どもがたくさん生まれて……孫もたくさん」

「未来でも見えるのか?」

「俺にそんな力はないさ。なんとなく言ってるだけ」

さて、もう寝よう。と寝返りをうつ。

「子どもが出来たら……」

「!」

「あんたに見せに来よう。孫もそうだ。だから、生きよう。まだ俺たちはしんでいない」


「……ありがとな、アレスト」




「ガァッ、ガアッ!ガアッ!」


カラスが鳴いている。

リュウガが飛び起き、玄関を開ける。その音で一同が起き上がる。

「なんだ?騒がしいな」

目を擦る。外に出てみると、

180センチはある巨大なカラスが空を飛んでいた。

「な、何これ!?変化……?」

リュウガのような魔族だろうか。

「チッ……!結界が解けておる!」

遠くから異形の声がして背筋が凍る。

「……ふむ。劣化ですねい。誰かに解かれたわけではない」

「劣化?結界は時間でダメになるの?」

「余程強力なものでなければ、何度もかけ直す必要がありますぜい」

「ストワード王宮のはかけたヤツが特殊じゃったんじゃろう。あんなに強力だったんじゃ。只者なわけがない。……こっちのはそうでもないと思っておったが、まさか今日切れるとはな」

「かけ直す……!ねえ、リュウガ!かけ直そうよ!このままだとレウォの家が!」

「結界は、作った本人がかけ直すしかないですぜい。魔法の縄張りというものがごぜえまして、違う者がかけると拒絶反応が出……危険な魔法が充満しやす」

それを聞き、ノアが辺りを見回してレウォを探す。しかし、いない。

「逃げたのかしらあ?良い判断だとは思うけどお」

「レウォが逃げたなら俺たちも逃げよう!教えてもらっただろう?異形とやり合うのはマズい!」

アレストの声に皆がハッとする。

「そうだね!皆、逃げ……」


「ガアッ!ガアッ……!」


カラスが降りて来た。異形たちがカラスを襲う。

「ひっ……!」

ノアの小さな悲鳴。アレストもかたまってしまう。

「そんな!あんな大きな魔族でも……」

「抵抗が出来ないんじゃ。……待て?何故そのことを知っておる?まさか、おぬし、」

「リュウガ、」

ヨンギュンがリュウガの腕を掴む。

「……そうじゃな」

「え?何?どうしたの2人とも」

「良いから逃げる!レウォにそう言われたじゃろう!」

一行は東に向かって走る。


「においが同じじゃった」


「……気づいていやしたか。ソクジュは魔族がひっそりと暮らす街。リュウガを見ても、言えなかったんですねい」


「ソクジュは……人間が治めておったからのう」


「おかしな街でしたねい。あっしも戦争前に立ち寄ったことがありますぜい。ホウオウという魔族を信仰しているのに、我々のことは恐ろしいと排除する」


「ストワードに近いからのう」


「レウォもきっと、生きづらかったでしょうねい」


「やっと人間共がいなくなって清々しておったじゃろうな」


「……それでも孤独が苦痛とは。それでも人間を守るとは、」


前を走るノアたちを見る。


「難儀ですねい。我々は」


「全くじゃ」




(そうか、あのお方こそがホウオウ様だったんだ)


血の雨を浴びた真っ白な髪の青年。瀕死の体を引き摺って歩いていた彼の名を、レウォは知らなかった。


―君だけでも……生きたまえ……!


そう言って強力な結界をはってくれた。それから1年以上、レウォは無事でいられた。周りの人間たちが異形になっても、アイツが来ても。


「あり……がとう……ホウオウ様……」


「俺は……少しの間だけでも……幸せになれました……」


もし血の雨が降らなかったら、違う出会い方をしていただろうか。このソクジュは、ホウオウ様を見て変わっただろうか。


―こちらがホウオウ様の城です。本物のホウオウ様がいらっしゃいます。これはホウオウ様のお姿を描いた絵です。


―ホウオウ様は、古くからこの土地の者に信仰されていた、素晴らしい神様です!

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砂時計の王子 〜episode of Nhoa〜 まこちー @makoz0210

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