第14話

「あっしは世捨て人、ヨンギュンでごぜえます」

ペコリと頭を下げる。その動作にリュウガが反応する。

「おぬし、その服装と口調、動作……ニチジョウ人か?」

「ええ。生まれはニチジョウですぜい。育ったのはブンテイですがねい」

「ほう。我もニチジョウ出身じゃ。おぬし、妙なにおいじゃのう」

ヨンギュンの周りを嗅ぐリュウガ。ノアは驚く。

「え、失礼だよ?リュウガ」

「いえいえ、構いやせんよ。あっしはたしかに疑われやすいですからねい」

「ヨンギュン……と言ったな。あんたもフートテチに用があるのか?」

ヨンギュンは暫しアレストを見、目を細めて笑う。

「そうですぜい。用……と言っても、親しい知性体は皆もう……赤い雨で亡くなりましたからねい。こうなったら故郷にでも戻って孤独に暮らそうかと」

「ニチジョウはブンテイより東にあるのよねえ。方向は私たちと同じだわあ」

「……異形、が恐ろしくて、」

ヨンギュンが目を伏せる。

「ストワードは平和ですねい。フートテチは……異形がいますぜい」

「えっ……」

アレストが絶句する。ここまで遭遇しなかったからもういないものだと思っていたが。

「おそらく、感染したのが遅かった知性体でしょう……。ああなってしまったらもう助かりやせん。本当ならば、あなたたちを止めるべきですが……」

「異形……怖いけど、でも、あたしたちは行かなきゃ」

ノアが深呼吸をする。

「正しいことを知りたいんだ。ね?アレスト」

「……あぁ。行かなくちゃだ」


「正しいこと、ですかい」


そう呟き、ヨンギュンがアレストを見上げる。


「きっと、世の中には知らない方が良いこともごぜえます。それでも、行かれますかい?」


「あぁ」


「……そうですかい。相変わらず、無謀者ですねい」


「えっ?」


「いえいえ、お気になさらず。それでは向かいましょか。共に東へ」




森の中を暫く歩くと、門のような大きな建築物が現れた。溶けてはいるが、立派な造りをしている。

「これがソクジュの門ねえ」

「ここからフートテチじゃな」

「建設中だった門ですねい」

「戦争中につくってたの?」

ノアが聞くと、ヨンギュンが頷く。

「ええ。ソクジュは戦争前にホウオウという神を祀るために大きな門をつくる計画をしていやした。が、戦争で中断せざるを得なくなり……」

「ホウオウ?聞いたことないわねえ」

「ストワード人は知らんじゃろうな。ホウオウというのは我と同じ強〜い魔族じゃ」

「神ですぜい。ソクジュの人々にとっての、ですがねい」

ヨンギュンはニコニコ笑っている。

「門の向こうには行けそうだけど、通っていいのかな?」

「門番がいないんだ。いいだろう」

アレストが門を越えようとする。と……。叫び声がした。一行に緊張が走る。

「異形……!」

ヨンギュンが呪文を唱える。リュウガが変化をする。

「我に任せろ!おぬしらは下がれい!」



「っ……!待て!」

炎を吐き出そうとしたリュウガの動きが止まる。黒髪で青目の男が門の上に立っているのが見えた。いつの間に。

「なんじゃおぬしは?」

「いいから変化を解いてこっちに!ほら、あんたたちも!」

「え?何で……?」

「いいから!早く!」


黒髪の男に着いて行く。こじんまりとした家に案内された。

「ここは強力な結界がはってある。アイツらは入れないからな」

「……おぬし、誰じゃ。何故止めた」

「もしかしてさっきの、あなたのお友達?だったら気の毒だけど、ああなったらもう戻れないらしいわよお」

「違う……!アレを倒してはいけないと伝えたかったんだ」

「倒してはいけないのか?」

アレストが怪訝な顔をする。倒した方が良いのでは無いのだろうか。自分が感染する前に。

「アレは餌だ……。アイツは、遠くからは俺たちが見えない。だから、餌が何者かによってころされたときにそのにおいで来るんだ」

「アイツって何?異形のこと?」

「知らないのか……。まあ、ストワードから来たなら無理もないか。異形の親玉みたいなもんさ。この大陸にはでっかい魔族がいる。血の雨を降らした本人だ」


「「「!!!」」」


「血の雨って、戦争中に降った赤い雨のことよねえ?」

男が頷く。


「そうさ。血の雨は知性体の魔力を増大させる。魔力器官を膨張させ、内側から破壊し……異形化させてしまう」


「だから体液で感染する。元々が血だからな」


「デカい魔族……恐ろしいな。リュウガよりもデカいのか?」

「我なんて比べ物にならんわい。というか、魔族かすらも分からん存在じゃろうな」

「正体はサッパリだ。戦争中に現れたらしいが、どうしてそんな魔族が……?ずっと考えているが、生憎ここから出られなくてな。調べられない」

「……でも、ありがとう。危なかった。教えてくれて助かった」

ノアが頭を下げる。

「そうねえ。異形の親玉がいるなんて。知れて良かったわあ」

「……知性体とちゃんと話すのは久しぶりだが、あんたたちが良い人で良かった。もう日も暮れるし、今日は泊まって行くといい。あ、俺はレウォ。ソクジュの住人な」

「ありがとう、レウォ。俺はアレストだ。少しお世話になるぜ」

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