第3章『即と文』

第13話

ノアたちは王宮を出て、東に向かう。アントワーヌのいなくなった王宮にはいられない。永遠に解けないのではないかと思うほどに強い結界の中。彼の遺体は王宮裏の墓に埋めた。

「アントワーヌ……何で……」

「外に出られた反動かもしれないわねえ」

「……そうじゃろうな。改めて外の様子を見て、未来の無さを痛感してしにたくなったんじゃろう。悪いことをしたのう、アレスト」

リュウガを見上げて首を横に振るアレスト。

「いや、アントワーヌは外に出ることを望んでいたんだ。あんたが無理やり連れ出したわけじゃないだろう?」

「無理やりではないのう」

「リュウガ。しぬ権利はアントワーヌにだってあるわよお。悲しいけど、私たちがどうこうできる問題じゃないのは事実よお」

「そうじゃな……」

「うん!寂しいけど、あたしたちは前を向くしかないよね。アレスト」

「……」


(アントワーヌは昨晩記憶が戻ったんだろう)


(俺のことも思い出した。俺の目的を知っていたのに隠したまましんだのは、『敢えて』俺に過去を言いたくなかったんだろう)


(メルヴィルと同じだ。俺に隠したいことがあったんだ)


(俺は一体何をしてしまったんだ……)


「アレスト!」

「……!」

ノアの声で現実に引き戻される。

「次はこの資料に載ってた、フートテチ王宮っていうところに行くんでしょ?」

「あぁ、そうだったな」

「とりあえず東に向かう、で良いのよねえ」

「ブンテイのデカい城じゃな。それで良いじゃろう」

「リュウガは知ってるところなのお?」

「もちろんじゃ。我はフートテチ出身じゃからのう。ニチジョウの山奥で生まれておる」

「ニチジョウ?」

ノアが聞き返すと、リュウガが地図をなぞって説明してくれた。

「フートテチは大きく4つに分かれておる国じゃ。東からソクジュ、ブンテイ、ニチジョウ、ランサキじゃな」


「あと承認されてはいないが、ナモナキと人魚の楽園がある。まあここは行く必要はないじゃろう」


「我らが目指すフートテチ王宮はブンテイにある。ソクジュを更に東に行った先じゃ」



「ブンテイ……」

ノアが前を向く。

「なんだか楽しみ!」

「うふふっ、分かるわあ。行ったことがないところって刺激的よねえ」





しばらく歩いていると、雨が降り始めた。

「これは一旦雨宿りじゃな。さっき通った街の宿に行くぞ」

「ああん!もうすぐソクジュなのにい!」

「そうだな。目の前だが……なあ、リュウガ、もう少し歩けそうだぜ?」

リュウガは既に来た道を戻り始めている。

「我は雨が嫌いじゃ」

「カエルみたいなのに?」

「ノア貴様……!誰がカエルじゃ!」

「えっ地雷なの!?ご、ごめん……!」




「もしもし、そこ行くおあにいさん方、」


「「「?」」」


男の声。声のした方を見ると、笠を目深に被った着物の男が袖で口元を隠して立っていた。


(何じゃ!?全く気づかなかった!魔法で足音と気配を隠しておったか!?)


リュウガがすぐに変化出来るように構える。


「あっしも共に東へ」


笠を上げる。細く青い瞳。


「参りましょおか」

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