第8話

ストワードの小さな街を経由しながらストワード王宮に向かう3人。水や食料を店から盗むように持ち出すのも慣れて来た。

「俺が王子だったらここに金を置いて行けたんだがな」

「アレストが王子?想像出来ない。でも、そういう服装はしてるよね?」

「え、そう?これ?」

アレストの服は白を基調としたものだ。赤と黄の装飾がついている。

「うん。王子って言ったらそんな服装じゃない?ね、リュウガ?」

「そうなのか?我にはわからんのう」

「リュウガは王子を見たことがないのか?」

「ある訳がないじゃろう。興味無いわ」

「リュウガらしいね」

そう言ってノアが笑う。アレストもつられて笑う。

(あ、笑ってる)

アレストはなかなか笑わなかった。シャフマ王宮ではずっと暗い顔をしていたし、ストワード王宮に行くと決めたときも不安げだった。しかし、リュウガとノアと共に外に出て、解放的になってきたのだろう。良い傾向だ。

「食料はこれくらいで良いかな。じゃあそろそろこの街も出て……あれっ」

「ん?」

「地図がない!ここに置いておいたのに!」

ノアが慌てて辺りを見回している。

「えっ、あんたさっきまで持っていただろう?」

「そうだよね?あたし、この水を持つ直前まで地図を持ってた……のに」

「今の一瞬のうちに盗られたんじゃな。犯人は近くにいるじゃろう。おぬしらはここで待て」

リュウガが外に出て、深呼吸をする。アレストとノアが少し遅れて外に出ると、真っ赤な竜が空に。

「リュウガ!?あんな姿にもなれるんだ!?」

「すごいな!空から探すのか」

「おぬしら、待っておけと言ったじゃろう。……おっ、いたぞ。アイツじゃな」

リュウガが変化を解いてなんちゃって人間体になる。走るリュウガを追いかける2人。



「あら、見つかっちゃったわあ」

長いオレンジ髪が揺れる。胸元の開いたシャツとタイトなジーンズを履いた、スタイルの良い女性だ。

「はあっ、はあっ……その地図、必要なものなんです。返してください」

ノアが言うと、女はニヤリと笑う。

「嫌ねえ。王宮にならここを真っ直ぐ行けばすぐ着くわよお。うふふっ。ほおら、もう地図なんていらないんじゃないかしらあ?」

「他人の物を盗んでおいて偉そうじゃのう。痛い目を見ないと分からんか?」

リュウガが女に近づく。

「野蛮なヒトねえ。怖いわあ。せっかく会えたんだから、仲良くしましょうよお」

女はリュウガに向かって走り、腕に掴まった。胸を押し付けられ、顔を顰めるリュウガ。

「あらあ、つれないのねえ」

「……我には妻がおる」

「へえ?そこの銀髪のカノジョ?」

「違うわい」

「ここにいないのなら、あの雨で亡くしたのねえ……。私も、夫を亡くしたわあ」

「……」

「寂しいのよお。あなたも、銀髪のカノジョも、黒髪のあなただって……大切なヒトを失ってここまで来たのよねえ」

黙り込む一同。メルヴィル、ゾナリス……アレストとノアには記憶は無いが、他にもたくさんの人を失ったことは確かだろう。

「あの雨で私の生活は一変したわあ。悲しいわよねえ。生き残るって言うのも、難儀ねえ」

「もしかして……地図を奪ったのって、あたしたちとこうやって話すため?」

「うふふっ、そうねえ。それも目的の1つだったわあ」

「他にも目的があるんじゃな?」

「……その地図の下に、いろいろ紙が入ってるのを見たからよお。何か調べてるのかしら?と思ってねえ。赤い雨のことが少しでも分かるなら、知りたかったのよお」

女が目を細めて笑う。

「私、この雨を降らせた犯人を許せないのよお。だから情報収集をしてるわあ」

「なるほど。それであたしたちの持ってた資料を狙ったんだ」

頷く。

「犯人、か……」

アレストの顔が曇る。

「……ね、ねえ!あたしたちも情報収集をしてるの!あなたも一緒に来ない?」

「一緒に?」

「うん!目的が一緒なら、行動も一緒にした方が安全だと思う」

「それは……そうねえ」

「それに、寂しいって言ってたけど……あたしたちと一緒なら寂しさも紛れるかもしれない」

「……!」

「アレストもリュウガも、良いよね?」

「仲間が増えるのは心強い。そう言ったのはノアだぜ」

「我は何でも良い。脚は引っ張るな」


「ありがとう。私はルドヴィカ・エル・スナヴェルよお。ルドで良いわあ」

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