第3話
ノアとアレストは2の部屋のドアの小窓から中を覗き込む。
しかし、中に2は居ないようだ。
「二さん、出掛けているみたい」
「そうか……」
「王宮を見て回ろう。アレストが動いてたときと変化があるかもしれないよ」
ノアがアレストの手を引く、とぼとぼと着いて行く。足取りが重い。
「あっちが出口だね。出ようと思えば出られそうだけど」
「いや、何か強力な結界でドアが開かない」
「え、じゃあアレストはどうやって外に出たの?」
「白い布の役人たちが外に出る一瞬を狙ったのさ」
「すごい……」
「……あのときは気が狂いそうだったからね」
ずっと孤独で閉じ込められていればそうなるのかもしれない。
「階段がある」
アレストの部屋と2の部屋は1階にあったが、まだ階はあるらしい。上に向かう階段が伸びている。
「上がってみる?」
「やめた方がいい」
「え」
「……人の気配がしないか?」
目を閉じてみろ、とアレストに言われ、ゆっくりと目を閉じるノア。
たしかに、2階には人の気配がある、かもしれない。
「だったら尚更」
「突然ころされたらどうする」
「アレストはその人たちには会わなかったの?」
「白い布を被っていた。皆。だから誰が誰かは分からなくて……とにかく2階に集まって妙なことをしているのはたしかだ。一度見たことがある」
「あたしも見に行く」
「……あまり良いものではないが」
2階への階段に足をかける。何か嫌なにおいがする。
「なんだ?1年前にはなかったにおいだ」
「え……」
「これは……あ、うっ……」
アレストが顔を顰める。
「まさか……とは思うが。……ノア!?」
ノアは意を決して、階段を駆け上がる。
「っ……!」
すると、白い布を被った何か、4つが廊下で重なっていた。
(あれは何?血が出てる?)
布の下の方が真っ赤に染まっている。ノアには気づいていないようだ。4つは重なったまま蠢き、酷いにおいを発している。
「の、ノア……遺体があったんじゃないのか?におい的に、これは誰かが上で……」
アレストの声が震えている。いつの間にか上がってきていたようだ。
「しんではいないと思う。でも、これ、人間なのかな……」
真っ赤に染まった布の下から出てきたのは肉色の大きな尾だった。他の布も明らかに中身が人間では無いような形をしている。
(二さんは人間だったよね?あれは髪の毛だったし、手も人の形だった)
しかし、ここにある4つの白い布の中身は違う。
(二さん、まさかここにいるの?)
「二、二さん?」
ノアが呼びかけると、白い布の動きが止まる。
「はっ……」
反射的に息を止める。襲われたらどうすればいいのか、分からない。
4つは重なるのをやめ、ただノアの方に向いた。
「……二さん?いるの?」
「あたし、だよ。ノアだよ」
「……」
沈黙。誰も何もしない。
どうやら二はいないようだ。
(そう思うしかないよね)
「ノアサン……」
アレストの声だ。ノアが振り返ったときだった。
「あ、危ない!」
白い布たちがノアの背中に襲いかかってきたのだ。
「きゃっ!?」
思わず目を瞑ってしまう。丸腰のノアは、何も出来ない。
「チッ……」
舌打ち。目を開けると、緑髪の生年が剣で白い布を止めていた。
「何をしている!アレスト!」
「あんたはたしか、メルヴィル王子……」
「ここには立ち入るな!危険だ!すぐに1階に避難しろ!」
「っ、あ、あぁ」
アレストがノアの腕を掴み、走り出す。
「あ、あの人は誰?」
「王子らしい。この国の。俺はそれしか知らないっ……」
息を切らし、アレストの部屋に逃げ込む。鍵をかけた。
「はぁっ、はあっ……なんだったの……?」
「白い布の連中は人間じゃあなさそうだな。あんたが接触したニサンもきっと……」
「二さんは人間だよ!私がこの目で……」
言葉に詰まる。
(本当は二さんも人間じゃないかもしれない。見えるところだけ人間のものに似せていて、後はさっきの何かと同じように……)
急に怖くなる。あの白い布の者たちは一体……。
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