窒素少女[ニトロゲンガール]
有象無象に紛れる必要のない存在。それが私。
そこに居ても居るものと思われず、居なくても特に誰にも構われない。それが私。
そうなりたかった。
私はいつだって嫉妬の対象。容姿に恵まれ、子役デビュー。頭も良くて、余裕綽々で大学合格。スポーツをすれば、鎧袖一触大勝利。過密なスケジュールが入って、手帳を持っていないとどうにもならない。それだけ注目を買っていた。
でもその分、攻撃される。小さい頃は学校で陰口、教員だって皮肉まみれ。掲示板を見れば悪口ばかり。私のことをまともに見てないくせにとは思うけど、それでも傷つきはする。もういっそ、誰にも見向きされない凡人だったら良いのに。
耳鳴りがして、今日が始まる。でもなんだか様子が違う。手帳がない。それだけだけれど、私にとって大問題。スケジュール、各所への迷惑、家族からの反感、全てを恐れる。まず今は、マネージャーからの連絡。それが一番怖い。けれど、待てども待てども連絡は来ない。不思議な気分だった。いつもなら朝起きてすぐの時間にマネージャーから連絡が来て、スケジュールを確認される。でも今日は何も起こらない。平穏だった。この感覚は何年ぶりだろう。
鏡を見てようやく異変に気づいた。鏡に映っていたのは私じゃなかった。そこにいたのは今までのアイドル然とした私とは違う、髪はボサボサ縮れ髪で目にはクマがある。一言で言ってただの陰キャだった。
私はなれたんだ。
私が望んでも手に入らなかった平穏、静けさ。今までの活動とは真逆、誰にも気にされない存在になれたんだ。
私は失った時間を謳歌する。趣味を同じくとする人間関係。家でのゲーム、アニメ、漫画。どれも今までの私では手にすることのできない娯楽だった。
楽しかった。新鮮だった。充実してた。
なんて思いとは裏腹に、ぽっかり開いた穴がある。欠くことのなかった、承認欲求の穴。
でも大事なものはそれではない。両親の愛情。それがここにはない。いいや、両親はいる。でもこれは本物じゃない。私の本当の両親はどんな思いをしているんだろう。そもそも元々の私はどうなっているんだろう。そんな事を考えつつも、今日の予定に合わせて行動する。スケジュールに細かいのは、昔の名残だろうか。
街に繰り出す。そこで私はありえないものを見た。両親に手を惹かれて歩く、小さな頃の私。でも私はここにいる。じゃああの私はだれ?私はここにいるのに。あそこは私の場所のはずなのに。私は.............誰なの?私はもう、何者でもないの?
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