第3話 救世主

 目の前には『女騎士』が現れた。


 なぜだろうか……

 普通なら、驚くのだろうが、なぜか安心が出来る。

 

 青いロングヘアの髪。

 背後から見ているので、顔は見えない。

 見た目は、まさしく騎士のように、鎧を身につけていて、大きな剣を握っていた。


 (まぁ、良く見てたから、顔も知ってるんだけどね)


ーーそう、実は知っているのだ。


 目の前の騎士は、俺の〝フィギュア〟なのだから。


 「何なんだ貴様は……殺す……」


おいおい、警戒をする気持ちは分かるぞ。

 確かにいきなり神様と、女騎士が現れたら警戒する気持ちは分かるけども、すぐに『殺す』はちょっと物騒すぎやしないか?


 「ブンッ」


 牛男は、女騎士に向かって、斧を振り下ろした。

 ーーしかし。


「ガキンッ」


物凄い男が洞窟内に響いた。

 

 「なっ……なんだと……」


牛男は、想定外の出来事だったのだろう。

 俺から見たら、激しく動揺している様に見えた。

 それもそうだろうな。


 牛男が振り下ろした斧を、女騎士が剣で

   受け止めているのだから。


 体格差でも遥かに上回っているのに女騎士は顔入れを一つも変えずにただ、牛男の動きを探っているようだった。


 (あっ、というか顔見えた)


大きな瞳に、純白のような白い肌。

 目鼻立ちは整っている。


 「驚いたか?見た目で判断するものじゃないわよ」


 女騎士はそう口にした。

 声は可愛いな……

 

 「我を舐めるなよ、娘よ」


牛男は、斧を再度振り上げると、女騎士の頭部を狙い、振り下ろした。


 さすがに受け止めきれないだろうな。

 俺がそんな事を考えていると、女騎士は思いもよらない、予想外の動きをした。


 振り下ろされた斧を瞬時に横に向かって避けるなり、素早く地を蹴り素早く男の顔を剣で斬りつけた。


 

 「ほぅ……我の頬に傷をつけたか……中々やるようだな、なるほど……見た目で判断をするのは良くないのは本当だったのだな」


「ふっ、冷静なようだな、その冷静さはどこまで続くかしらね」


牛男をからかうように女騎士は言った。


 (おいおい!強いのは分かったけどよ、喧嘩は売らない方が良いだろ、怒りで急に成長されたらおしまいだろ!)


「逆に娘よ、貴様もその舐めた様な口ぶりもいつまで続くのだろうな」


(乗っかるのかい!喧嘩売られたら乗っかるのかい!)


あんなに恐ろしいと思っていたのに、緊張感が無いせいか、急に体の緊張が解けてきた。


 「そろそろ飽きてきたわね、終わらせてもらうわ」


「それは我のセリフだ。終わらせてやろう」


決着をつける様だ。

 互いに動きを探っている様だ。

 

 (どちらが先に攻撃をしかけるのだろうか)


 「貴様を今すぐあの世へ送ってやるわぁ!」


牛男は、そう恐ろしいセリフを口にすると、

 女騎士に向かって斧を思い切り振り下ろした。


 まともに喰らったら、確実に致命傷では済まないだろう。


 「動きが単純すぎるのよ」


女騎士はそう口にすると、


 「ガキンッ」


牛男の斧を弾き返した。


 「ぐあっ!なんだと!ありえん」


バランスを崩している。


 「一定の箇所に凄い勢いで振り下ろしてるからよ、弾けばバランスを崩すのは常識よ」


バランスを崩し、後ろから倒れそうになっている牛男の腹部を目掛けて女騎士は攻撃をしようとしていた。


 「シスター・スレイシス!」


女騎士がそう口にすると、男の腹部に黄金色に輝く


〝結晶〟が現れた。


 「これでとどめよ!」


女騎士がそう言う。


 結晶に向かって、剣を突き刺した。


 「なっ、なんだこれは」


牛男はいきなり自分の腹部に、黄金色の結晶らしきものが出た事に驚いているようだった。 

 ーーいや……慌てているのかもしれない。

 

 牛男は気づいているのだろう……


 もう、回避すら出来ない攻撃を仕掛けられている事に。


 「どうやら、私の勝ちみたいね」


女騎士は余裕の表情を浮かべながら、そう口にした。


 「何?まだ終わっていない…なっ…ぐっ!」


男はもがき苦しんでいる。


 「じゃあね、哀れな魔物さん」



 「ぐぁぁぁ!我が負けただとぉぉぉ!」


聞いた事があるような捨て台詞を吐いて、牛男は爆発した。


 (おっ……終わったのか……)


そう安堵していると……


 

 「ソウスケ、大丈夫か?」


女騎士様に声をかけられた。

 

 (心配してくれていたんだ……ってあれ?なんで俺の名前を知っているんだ?)


「『どうして名前を知っているんだ?』って顔をしているね」


まだ、言ってないんだけどな……

 まぁ図星だ。


 「その、なんで名前を知っているんですかねぇ?」

気になりすぎたので、自分の意思とは関係なく口が動いてしまった様だ。


 「ふふっ冗談でしょ?」


 小馬鹿にするように、女騎士は笑った。

 でも、冗談じゃなくて本気なんだよな……


 「本当に分からないです。なんで俺の名前を知ってるんですかね?」


「えっ?本気で言ってたの?何それ……」


女騎士の表情は、驚きと言うよりは、引きつったような表情をしていた。


 「貴方が、ずっと言ったんでしょう!『俺はソウスケって言うんだよぉ〜〜、よろしくね!』って!」


あっ……

 これは正直やばい……

 俺の黒歴史が掘られそうな予感が……


 「んっ……あれ、ここは……って!ソウスケさん!大丈夫ですか?ってあれ?」


どうやらナミナさんは、恐怖のあまり、気絶してしまっていたらしい。


 「お目覚めかい、ナミナちゃん!」


(はぁ、ナミナちゃんの寝顔見忘れてしまった……まぁ、あの場で見れる訳がないよな)


「あの!ソウスケさん、先程の牛の様なのは……って……そちらの騎士様はどちら様ですか?」


 「あぁ、それはね」


それから、あの牛男が出てから、女騎士が現れるまでの経緯をナミナさんに話した。


 「そんな事態になってたんですね、ごめんなさい、怖くて気絶しちゃって……」

どこまでもいい子だな。


 「ところで、どうして騎士様は現れたんですか?」


 「あぁ、それはね……あ……」

やばい、理由を言ったら絶対にナミナさんは幻滅してしまうだろう。


 どうしよう……

 それだけは絶対に嫌だ!


 「それはソウスケが私を呼んだからよ」


(おい、やめろ、やめてくれ……)


「ソウスケさんが呼んだ?どういう事です?」


 やばいやばい!

 思ったよりも食いついてるよ……


 「私はソウスケの〝フィギュア〟だったんだけどね、ソウスケが心で私に助けを求めていたからな、助けに来てあげたのよ」


「えっと……フィギュアって言うのはなんなんでしょうか?」


それから女騎士は、フィギュアについての説明をした。

 

 「えっ、それって、ソウスケさんは変態だったんですか?」


ナミナちゃんに幻滅された。

 最悪すぎるだろ!


 「まぁ、そういうことになるわね」


何言ってんだ! 騎士野郎が!


 「もう、俺の話はいいから!」


「あ!ところで騎士様のお名前とかって教えていただけますか?」


ナミナさんはもう、幻滅してしまったのか、話を変えた……

 (なんか、辛い……辛すぎる……)


「私の名前は、エシリアよ」

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