うえ~ん

尾八原ジュージ

いいわけじゃなくて

 上のロッカーから何か垂れてたんです。

 そう、大学のロッカールームの。私008番なんですけど、真上の007番っていうのが曰く付きで。「使うと不幸になる」って、ほんとかどうか知らないけど永久欠番らしいんです。

 でもそこからなんか、水みたいなのが垂れてくるんですよね。それで本とか濡れちゃって。普通の本屋にない高い本なのに。

 さすがにどこかに相談しようと思ってまず事務室に行ったら、やっぱりそこは空きだっていうんです。でも絶対何か入ってるし。

 もしかしたら誰か勝手に使ってるのかも――って話してたら、大きい男性の職員さんいるでしょ? 筋肉モリモリって感じの。その人が一緒に確認してくれることになって、二人でロッカールームに戻ったんです。

 午後六時くらいかな。七限の途中だから誰もいなくて。

「じゃあ、見てみますね」

 って、職員さんが007番を開けてくれたんです。

 そしたら中に――お世話人形っていうのかな。赤ちゃんの人形があるんです。

 その周りに色んなぬいぐるみがぐちゃぐちゃに詰めてあって、私なんとなく(この子のぬいぐるみかな)って思った。そしたらその人形が突然、

「うえ~ん」

 って言ったんです。口が歪んで、目からぼろぼろ涙がこぼれて「うえ~ん」って泣くの。とても仕掛けなんかに見えない、すごい生々しい感じで……。

 そしたら急にバタンッてロッカーが閉まって。職員さんが真っ青になって扉に鍵かけてるんです。

「とりあえず戻りましょう」

 って。私も夢中でうなずいて、だって、どうしようもないじゃないですか。こんなのどうしたらいいかわかんないもん。


 その日はそれで帰ったんですけど、一人暮らしだから夜になるとどんどん怖くなってきちゃって。もう夜十二時近かったけど彼氏に連絡したんです。そしたら深夜の散歩がてら来てくれるって。

 ほっとして待ってたら、しばらくしてインターホンが鳴ったんです。

 ドア開けたら彼氏がすごい不自然な笑顔で、汚い段ボール箱持って立ってるんですよ。

「いいもの持ってきたよ!」

 って。

 そしたらその箱の中から「うえ~ん」て声がしたの。

 彼が箱持って家に入ろうとするから私、一生懸命押し返したんです。帰って! って叫んで夢中でドンッて押したら、彼、箱ごとアパートの階段から落ちちゃって。

 だから私、わざとケガさせたんじゃないんです。変ないいわけじゃなくて本当に。信じてください。

 そういえば箱は? 箱も落ちてましたよね? なかった?

 えーっ……うそ……何それ。ははは。


 どこ行ったんだろ、あいつ。

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うえ~ん 尾八原ジュージ @zi-yon

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