都合家『家法』で都合が悪い!

維 黎

都合が悪い話

 都合つごうグループは江戸時代末期に商人だった都合つごう与賀郎よかろうおこした商家を元に代々の当主が築き上げてきた。僕が自慢することじゃないんだけど。

 で、そういう古い所謂いわゆる名家には独特というか他家よそではちょっと首を傾げるような家法――しきたりがあったりする。


 曰く、都合家男児は婚姻するまでは貞操を守るべし。

 曰く、都合家男児は求婚することなかれ。

 曰く、都合家男児は妻たるを戴き支えとなるべし。


 この三家法を要約すると――

 結婚するまでHは禁止。

 自分から告白や求婚プロポーズはダメ。

 結婚後、グループや会社経営は妻になった女性に任せること。


 なんでこんな家法があるかというと都合家はある種の女系家族――というより女強家族といえばわかりやすいかも。

 創始者は与賀郎なんだけど、結婚した与賀郎は奥さんに商売を任せて自分は裏方に回ったのだとか。


 都合グループは強い女性が率いてこそ繁栄がある――んだそうで。

 都合の御曹司に対しても臆することなく、愛を貫く強い覚悟と心を持った女性を必要としているらしい。


 だから都合家の男子はその素性を隠さないといけない。告白されて初めて素性を言えるのだ。

 小中の時は女性と極力接しないよう送り迎えで管理されるし、高校は地方の男子校へ入学させられる。そして、高校から都合つごう家の人間ではなく都合とごうとして生活することになる。この辺りは都合の力を使って書類に手を回しているらしい。

 大学は都合家が理事をする大学に入学する。もちろんちゃんと入試で合格しなければいけない。

 素性を隠しているので都合つごう名前コネで入ることは出来ないから。

 職場ももちろん入社試験を受けて入った。都合グループの関連企業に素性を隠して。 


 そんな訳で僕、都合与志とごうよしが彼女いない歴25年なのは仕方がないのだ。いいわけじゃなく家の事情なのである。

 はぁ。こんな僕を好きになってくれる女性ひとなんて現れるんだろうか。


 ほんと、都合は都合が悪い。




――続――











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