第2話 目の当たりにする・・・

「輝典さん…」

「一年A組藍田 輝典さん!」


「っはいっ!」


隣の人に小突かれてようやく呼ばれていたことに気がついた俺は突然のことに驚き、

なんとも気の抜けた情けない声を上げながら僕は立った。

俺は気づくとシアターのような場所の入学生の席に着席していた。さすがは私立と言ったところで、なかなかに広くふたつの階に分かれていた。全校生徒は入れるくらいの広さだ。前のステージには校長らしき人物が立っていた。

どうやらショックで考えることをやめていたようだ。


次に隣の人が呼ばれ座ると俺は周りを見渡し、改めて今現在起こっている事態に

直視し、再び理解しようと試みた。考えると

その様子に周りの人達は訝しんでいたかもしれない。しかし俺は、

目の前にいる男、男、男を目の当たりにし

絶望をひたすら覚え、もはや恐怖を感じていた。


さよなら。夢にも見た青春。

これは、甘酸っぱいどころか苦すぎる学校生活が待っていそうだ。と、

思った。

すると、落胆の波の第二波が襲ってきた。



「―――――――――これで第七十二回、斧田中学校入学式を閉会します。」

校長の、ヨシ― 何とか校長はそういうと、

一度礼をしてステージの右側へと姿を消した。




「はい、ではこれから教室に戻り、軽くレクリエーションします!」と

自分のクラスであるA 組の担任らしき男の先生が明るく意気込んだ様子で声をあげた。

周りを見ると、いつの間にかクラスごとにまとまりができていた。


俺は母さんと別れを告げてからその輪に入って行った。


うげっ 全員男だ。

そんな今更のことを思いながら、担任の声に耳を傾けていた。

「では、教室の方に行きましょうか!皆さんが首を長くして待っていた新生活の始まりです!」


担任はそういうと、壁と客席の間の通路に名前順で並ぶよう指示し、その列の一番前に並んでニコニコしながら並ぶのを待っていた。


皆が並び終えると担任は相も変わらず笑みを浮かべたまま前を向き、「では、いきましょー」と言いながら出口へと誘導していった。

どうやら俺は、出席番号1番のようだ。



「ねえ、あいだ てるのりだっけ?さっきもしかして考えごとしてた?」

二メートル間隔で窓があり鬱陶しいくらいに日光があてられている廊下を歩いていると後ろからそう声が聞こえた。

「えっ」

振り返りながら、しかし歩みはやめずにそういった。

「ほら、入学式の席の隣だったじゃん。」

彼の態度になぜかすこしイラっと来たのは

いまの俺の感情のせいだろうか。それともまぶしい陽の光に彼が照らされていたからだろうか。

「いや、別に。」

そうそっけなく返したことをおれは後悔した。

たとえ男子校といえど、これから六年間過ごす友なわけで、

こういうコミュニケーションは最初が重要であると、俺が愛読している『女子との会話マニュアル』

という本に書いてあった。というか小6で女子と話した覚えはないためその本を頼りに新生活に臨むほかなかった。もっとも、今日も学校指定のリュックに

『毎日手作り料理』という料理本の背表紙をつけて忍ばせているのだ。

その題名でまた女子ウケをねらってな。


「なあ、きいてる?ノリ。」


「ん、ああ、聞いてるよ。で、君の名前は?」

気づかないうちに自分の世界に入り込んでいたようだ。この癖は直しておかなければ。 .....ん、ノリ?

「だから言ったじゃーん俺の名前はイガヤ ユウマ。イタリアの伊に谷で伊谷

優雅な馬とかいて優馬だ。」

もう一度繰り返して言ってくれたのだろうが、ダルさを感じさせないしゃべり方で、

非常にフレンドリーな感じがした。

「ああ。俺は藍染の藍に田んぼで藍田、輝くに古典の典と書いて輝典。だよ」

なんせ同級生との会話は受験期から避けてきた身だったので会話が難しい。

男子との会話シュミレーションはしていなかったな。そんなことを考えていると、

「へえ~ 藍田ってそうかくんだね。ノリ珍しいね。」といった。

おい、ノリってなんだと心でツッコミながら

「あはは、そうかもね~」

と、話せる友達が一人できたという安堵とともに

まだ先見えぬ新生活に未だ希望を見いだせずにいた。

























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手違いで青春のない現実です はたけんたろー @htk2000

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