いいわけ~俺と先輩の空手デート~

山岡咲美

いいわけ~俺と先輩の空手デート~

「違うんです先輩!!」


「何が違うの?」


 俺は待ち合わせ場所の駅前モニュメント、堂々と正拳突せいけんづきをする[空手マスター・空手堂道真からてどうみちざね]の銅像前で微動だにせず直角に頭を下げていた。


 おしゃれをして軽やかなロングスカートの先輩は何時も黒帯を絞めて空手道場でするように仁王立ちだった。


 切ったばかりの髪も台無しになるくらい怒っている


 今日のデートを楽しみにしていたに違いない……。


「違うんです先輩、アパートは九時に出たんです!!」


「今、十七時なんだけど……」


 待ち合わせは十一時……。


「違うんです先輩、電車が止まってて自転車で来ることになってしまって……」


 俺は、頭を下げたまま横にスタンドも立てずに倒れた自慢の自転車、マウンテンバイクのマウ太郎をチラリと見る。


「あんたのアパートからここまで二駅、自転車でも三十分もかからないでしょ?」


「違うんです先輩、一駅目で両親とはぐれた女の子がいて、その子泣いてて、両親を一緒に探してあげてたんです!!」


 俺は助けた女の子のご両親から、中央駅に向かうなら持って行って下さいといただいた、スポーツドリンクのペットボトルを先輩に渡す。


「ありがとう」


「いえ先輩」


 先輩はグビリとスポーツドリンクを飲んだ。


「で、女の子の両親を探し続けて八時間もかかったんだ、警察にたのもうと思わなかったの?」


「違うんです先輩、もちろん交番にも行きました、でも警察の人、なんか事件があったらしくって出払ってて、女の子両親を探してたらもうお昼になってて……」


 俺は少し顔を上げ、先輩の様子をうかがう。


「じゃあそのあとは一駅に十二時から十七時まで五時間もかかったんだ、せめて連絡くらいしてほしかったな~」


 先輩は嫌みっぽく仁王立ちのまま俺を見おろす。


「違うんです先輩、スマホ、スマホが、電話もメールも繋がらなくって!!」


「へー」


 先輩はいいわけは聞きあきたって感じでソッポをむく。


「先輩お願いします、俺の話を聞いて下さい」


「はいはい後輩くん」


 先輩はいいわけがましい男が嫌いだ……。


「そのあとが本当に大変だったんです、道路は車がつまってて山ほど停まってるし、その回りをなんか変な人達がうろうろしてるし」


「ん? うろうろって、コイツらの事?」





「ええそうです! そんな感じに頭からつのえてる変な連中でした!!」





 俺は先輩がアゴに一撃を入れて倒したと見らる、が回りに転がっているのを見渡す。


 頭から角の生えた変な人達は先輩の正拳突きの拳一撃こぶしいちげきで脳を揺らされ、体に力が入らず地面にうずくまったままうめいている。


「で? あんたはのせいでデートに遅れたと……」


「すっ、すいません……、倒しても倒しても、次から次に寄ってきて…………」


 俺は、頭から角が生えてる変な人達のせいでボロボロになった金ドラゴンの刺繍ししゅうの入ったスカジャンの背を丸める。


 誕生日に先輩がプレゼントしてくれた大切なスカジャンだった。


「…………まあいいわ、あんたが女の子見捨てて来たっていうなら怒ったけど、ちゃんとデートに来たんだし……」


「先輩……」


 俺は涙ぐみ先輩を見つめる。


「じゃあデートの邪魔だから、先に空飛んでる奴らも片付けようか?」


 俺は空を旋回してコチラを狙う、を見上げた。



 三、四十はあるって群れだった。



「はい先輩!! 全員正拳突きですね♪」


「そうよ、私達のデートの邪魔する奴は全員根性叩き治すから☆」


 俺と先輩は空から襲いかかって来る、大きなコウモリの羽が背中から生えた変な人達を魂込めた正拳突きを駆使くしして一人一人行動不能なるように一撃を入れ続けた。


 俺は暴力が嫌いだ、でも先輩とのデートの邪魔をする奴は別だ、先輩とのデートの邪魔する奴は、脳を揺らされ地に崩れ落ち、根性叩き治されて当然なのだ!!



 俺、空手始初心からてはじめしょしんは先輩、空手堂道留からてどうみちるを愛している!!



愛は正義だ!!!!

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