149作品目

07話

「由良にはこれだな」

「アイマスクに耳栓……確かにお姉ちゃんは寝ることが好きだけどだからって……」

「だからちょっとアイマスクの方は可愛い系にしてあるだろ？　で、紗良はどうするんだ？」

　いつまでも横にいるだけで全く選ぼうとしない、クリスマス前ならいいが残念ながらもう当日だから選ばないで帰るという選択肢はなかった。

　なんでもいいから絶対に選んでもらう、それで後は食べ物なんかを買って帰るだけだ。

　ちなみに姉の方も誘ったものの、興味がないということだったから先に俺の家に行ってもらった形になる。

「うーん……すぐには出てこないわ」

「ゆっくりでいい、まだまだ時間はある」

　が、探すことすらしないでやはり隣を歩いているだけだ。

「なあ紗良、そろそろ――うわっ」

　いきなり腕を引っ張られて情けないところを晒す羽目になった。

　俺がこうなったきっかけを作ってくれた白木は笑って「ふふふ、流石に驚きすぎじゃないですか？」と言う、少し熱くなったことからは意識を逸らして紗良に呼んだのかと聞いてみると「いえ」と答えられてどうしようもなくなった。

　こんな偶然があるのか？　いや、これは偶然ではない。

「今日はクリスマスだというのに二人きりで行動をするとはどういうことですか？　デートのつもりなんですか？」

「プレゼントを選びにきた」

「お、デートは否定しないんですね、ふーん、そっかそっかぁ」

「それより白木は一人なのか？　兄貴は？」

「まだケンカしたままですからね、そもそも仲良く二人でお出かけしたりなんかはしませんよ」

　いつまで喧嘩をしたままなのか、なんてのはいいか。

　とりあえず紗良に頑張ってもらわないとここから帰ることができないから白木にも協力してもらうことにした、礼はなにか美味しい物を買うということで受け入れてくれた。

「紗良ちゃん、あれは全く選ぼうとしていませんね」

「やっぱりそうか」

「もしかしてクリスマスだからということで渡邊先輩にしてほしいことがあるのでは？　プレゼントを受け取ってしまったら要求できなくなってしまうからなかったことにしたいのかもしれません」

「プレゼントを贈ったうえでそれだって受け入れるけどな、なにかを求めているのであれば、だけど」

　でも、そればかりは言ってくれないと叶えようがないというやつだった。

　手を繋ぐ、抱きしめる、その程度ならできるが求めていることと違うなら紗良のためにもならないからはっきりしてもらうしかない。

「ならそのことを言ってあげてください、大丈夫です、今更自意識過剰とはなりませんから」

「なんか白木がそう言うと普段から駄目駄目みたいだよな」

「はは、事実じゃないですか」

「ん？　まだ帰るなよ、礼ができていないだろ」

「いいです、次に会ったときにお願いします、それではー」

　なんだあいつ、空気を読んだつもりなのだろうか？　それなら最初から……と考えてしまうのは頼っておきながら勝手だが。

「紗良……っと、そっちもちゃんとするから選んでくれ」

「……ならお姉ちゃんと同じやつでいいわ」

「適当すぎだろ」

「正直、二人きりでいたいのよ、ここだとそれが叶わないじゃない」

「いいから、その後ちゃんと付き合うよ」

　寝ることが好きなのだから遅くまでは起きていない、だったらそのときに行動すればいい。

　時間的に遠いところまでは行けないが少なくとも二人きりの時間は必ずやってくる、焦ったり引っかかったりする必要は微塵もない。

「峰……君」

「はぁ、紗良は頑固だな。分かったよ、だけど今度絶対に選んでもらうからな」

「いいのよ」

　店をあとにして家へ、とはならずにまたあの公園に寄ることになった。

　時間が経過すればするほど由良が拗ねるのではないかと不安になるものの、分かったと受け入れたのも自分だからいまは捨てて付き合うしかない。

「明日から部活があるのか？」

「ええ」

「ほとんどが午前までとはいえ、紗良達の場合はあんまり冬休みという感じもしないな」

「仕方がないわよ、峰君達だってやってきたことじゃない」

「そうだけどさ、いまの紗良的には気になるんじゃないかって思ってな」

　これは結構どころかかなり自意識過剰な発言だった、でも、あれだけ俺といたがっている彼女ならと考えてしまうのは別におかしなことではないと思う。

　分かりやすく求めてくれるからというのもあるがいつの間にか紗良が前よりも大切な存在に変わっている、だから受け入れてやりたくなる、こっちからも動いてやりたくなるのだ。

「それは……そうね、お家に帰ったときに相手をしてもらおうとしてもお姉ちゃんは寝てしまっていたりお出かけしてしまっているから寂しいことも多いわ、あとは……やっぱり峰君ともっといたいわね」

「俺だったらいつでも相手をさせてもらうよ、口先だけじゃない、最近の俺を見ているなら信じられると思う」

「そうね、とりあえずお家に行ってみているのかどうかを確認する、そんな繰り返しではなくなっているもの」

　まあ、歩くことなんかは一人でいるときにいくらでもできるのだからどうでもいい……と片付けてしまうのはちょっとあれか。

「来てもらってばかりなのも悪いから泊まりに行くよ」

　俺は彼女と決めているから来てくれるのはありがたいが流石になにもなさすぎる、あとはやはり由良とか両親がいてくれるということで自宅の方が彼女的にも安心できるだろう。

「嫌よ、それだと二人きりの時間が減るじゃない」

「え、いま由良が相手をしてくれなくて寂しいって……」

「それとこれとは別よ、あとね、あなたはお姉ちゃんだったりあの子と仲良くしすぎよ」

「由良はともかく白木とは違うだろ」

「どうだか」

　どうだかではなくて本当のことだ、白木だってそんな風に見られたくないだろ。

　だから結局、まだまだ足りないということか、彼女がこんなことを言わなくなってやっとちゃんと応えられていると自信を持って言うことができるということになる。

　難しそうだが適当にしたいというわけではないため、頑張るしかなかった。

「おかしいな」

「明日も部活があるからな、粘った方だろ」

「まあ、積極的に中学生を夜更かしさせる高校二年生達というのも問題になるからな」

　だが、これだと出かけた際のそれと公園のときの少ししか叶えてやれなかったことになる、言うことを聞いてプレゼントも買って渡せていないから引っかかる。

「大晦日にやることやればいい、あたしは行かないからな」

「それって変な遠慮をしているとかじゃないよな？」

「違う、去年だって行っていないだろ」

　去年どころか中学生のときも行かなかった、六年のときだけ「行こうぜっ」とハイテンションで誘ってきたことがあるが。

　多分、あの頃はまだ耐性があったのだと思う、が、歳を重ねて耐えられなくなってしまった……というか、現実を知ってしまったというところだろうか、真夜中に外に出たところでいいことはなにもない、とな。

　ここで行こうぜと誘ったところで身も蓋もないことを言われて終わるだけだ、そして違うだろと否定できることでもないというのが難しいところだった。

「あ、ならいいけどさ」

「峰、今更こっちのことなんか気にするな、それに露骨に差を作っているのにおかしいぞ」

「それを言われると耳が痛いけどさ、紗良がいないところでぐらいではな」

「二股をかけているように見えるからやめろ、あとは紗良が不安になるようなこともやめろ」

「じゃあこれは？」

　少し意地が悪いがリビングでだらだらしていたところにやって来たのは由良だ、客間で寝ている二人のところにいて、紗良が寝たからということで誘ったというわけではない。

「これは……まだ眠気がこないんだから仕方がないだろ」

「だよな」

「なんだよそれ……」

「はは、悪い」

　温かい物でも飲むか、寝たいなら逆効果……ともならないそんな物だ、人によるだろうが実際に寝られなくなるなんてことはほとんどない、寧ろ冬ということもあってトイレの回数が一回増えるかもしれない程度だ。

「はい」

「ありがとな。ふー……あち……」

「気を付けろよー」

　上がっていたテンションも落ち着き始めた、まあ、もう二十二時になるのだから上がりっぱなしでは困るというやつだが。

　俺的には歯を磨いてもう寝てもいいぐらいだから自由にしていいと言ってリビングをあとにする、面倒くさいが治療費なんかも馬鹿にならないから歯についてはちゃんとしておかなければならない。

「あたしも寝るから歯を磨きにきた」

「そうか、なら使えよ」

「おやすみ」

「おう、おやすみ」

　早く起きて朝に話せばいいか。

　部活があるから長時間は無理でも二人きりにはなれる、そうすれば少しは紗良のために動けたことになるはずだ。

　だから寝ることに集中した、が、そうすると逆に寝られないというやつで結局、徹夜をすることになった。

　いつでも気づけるようにとリビングの扉を開けたままソファに座って待っていると、

「……早いわね」

　目を擦りながら眠そうな紗良が出てきてくれて助かった。

　いやだってどうせなら来てほしいだろ、話せないまま部活に行かれてしまいましたでは寂しすぎる、馬鹿になってしまう。

「おはよう、なんかテンションが上がってしまってな」

「ふぁぁ……洗面所を借りるわね」

「おう」

　やばいやばい、これだって目的を達成できたことになるから油断しているとあっという間に瞼がくっつきそうになる、そのため、馬鹿になってしまうのではなく馬鹿だった。

　そもそも寝られなかったのも馬鹿だろ、子どもかよって、大学に行かないならすぐに社会人になるのに大丈夫かよという話になる。

「改めておはよう――ん？　あなた……」

「な、なんだ？」

　こっちまで歩いてきたと思ったら少し前で足を止めてじろじろと見てきた、もう顔を洗ったり歯を磨いたりしているからよく分からない、寝癖だって寝られていないからないのだ。

「ふふ、そういうことね」

「な、なんだよ？　なんかからかうような笑みだけど」

「なんでもないわ、私は朝からあなたと話せて嬉しいわ」

　途中から駄目になった、笑顔の種類を変えやがって。

「き、昨日のは紗良が寝てしまっただけだぞ」

「なんで目を逸らすの？　ちゃんとこっちを見て」

「い、いや……まあ、俺も部活前に紗良と話せてよかった」

「それなら……って、なんで顔が赤いの？　もしかして風邪？」

　ここで風邪なのかと出てきてしまう辺りが真面目少女という感じがする、ではなく、意地が悪かった。

「違うよ、これで気にせずに寝ることができる」

「やっぱりそうだったのね、まだまだあなたも子どもだわ」

「そうだよ、だから紗良が真面目だっていつも言っているだろ。じゃ、気を付けろよー」

「あっちで寝てちょうだい」

「は、はあ？　なんでそんな……分かったよ」

　寝られればどこでもいいか、ベッドがいいとかそういう拘りもないしな。

　ということで由良を起こしてもらって三人で菅鷲家に向かった、大好きな歩くという行為でもいまの睡眠欲だけは消すことができないようだった。

「ただいま……まだ寝てる」

「ずっとこれだぞ」

「きゃっ、い、いたのね」

「ああ、ずっとベッドの上にいたぞ」

　姉なら本当にやりかねない、逆に意地になっていそうだった。

「最近の峰なら紗良がいない間に自由にする、なんてこともありそうだったからな」

「峰君はそんなことをしないわよ」

「ああ、紗良が出て行った瞬間からこれだからな、呆れたよ、これならまだいたずらをしてくれた方がよかった」

　い、いや、それも勘弁してもらいたいところだけど……。

　でも、お掃除なんかはしていて見られて恥ずかしい物もほとんどないから仮にそれでも構わないと言えば構わないけどね。

「とりあえずお疲れさん、今日はあたしが飯を作ってやる」

「それならお願いね、私はちょっとシャワーを浴びてくるわ」

「分かった、そこの微妙な人間は飯ができてから起こせばいいか」

　正直、眠たいならこのまま寝かせてあげた方が本人のためになる気がする。

　なんとなく着替えを持った後に彼の寝顔をと意識を向けてみたら見られていて驚いた。

「お、起きていたのね」

「ああ、おかえり」

「た、ただいま」

　お風呂……やっぱりいいかな、全く汗もかいていないから、うん。

「よし、これでやっと紗良とゆっくりすることができるな」

「あ、朝からどうしたのよ」

「いや、朝に自由にやってくれたのは紗良だろ、笑みを浮かべて一緒にいられて嬉しいとか真っすぐに言うなよ」

「事実よ？」

「事実だとしてもだ、もうちょっと自分のことをちゃんと分かった方がいいな」

　えっと……？　難しい言い回しでこれだという答えが出せない。

「つまり峰はドキッとしたってことだ」

「由良、はっきり言うなよ」

「はは、起きたなら手伝ってくれ」

「それはやるけどさ」

　え……ということはと先程までと変わった自分がいた。

　受け入れてくれているけどそういうつもりはあくまでなくてこっちの勝手な一方通行だと思っていたけど違う……ということなのかもしれない。

　……ここで寝るように言ったことは間違いだったのかもしれないものの、後悔してももう遅いというやつだった。

「やっと下りてきたのか」

「ご、ご飯は？」

「峰が作ってくれている、なにをしていたんだ？」

「なにをしていたと言われても……」

　少しの間、ベッドの上で暴れていたとそのまま真っすぐに言うわけにもいかないから困った、が、姉はなにを勘違いしたのか「風呂に入るのっていきなり面倒くさくなるよな」と言ってきて乗っかるしかなかった。

　あっさり当てられたりしないでよかった、そうしたらこの前の峰君みたいにお家を飛び出すことになっていたから。

「ま、なにも影響を受けないというのは無理だよな、だって気になる男が自分の行動でドキドキしたってことなんだから」

「うっ、わ、分かっていたのね」

　結局これ……心臓に悪い、そして姉が悪いわけでもないからどうしようもなくなる。

　それでも飛び出さずに済んだのは姉の顔が真面目だったからだ、にやにやからかうような笑みを浮かべていたりはしないから心臓を慌てさせつつもここに存在しておくことができる。

「当たり前だ」

「峰君って昔はあんな感じではなかったわよね？　なんか優柔不断……というか、自分の意見を出さないということか」

「ああ、姉妹がいいならが口癖だったな。だけど紗良と決めているからだろ、あいつなりに頑張っているんだ」

　それは分かっている、口先だけではなくちゃんと動いてくれていることも嬉しい、だけど積極的すぎても気になってしまうという面倒くさいところが出ているだけだ。

「おーいおい、紗良は早く風呂に入ってこいよ、もうできたぞ」

「おい、盗み聞きをしていたんじゃないだろうな？」

「こことあっちはすぐ隣なんだぞ？　普通に聞こえるよ」

「はあ、紗良の相手が峰でいいのかねぇ」

「少しだけでも紗良に選んでよかったと思ってもらえるように頑張るつもりだよ」

　姉も味方をしてくれているのだろうけどそれがいまは全部突き刺さることになる。

　とにかく、彼が作ってくれたご飯が冷めてしまっては申し訳がないから先に食べさせてもらうことにした、よくよく考えてみたら自分のいない間に仲良く会話をしていたかもしれないから二人きりにしたくないというのもあった。

「美味しいわ」

「そうか」

「紗良が作ってくれた飯の方が美味い」

　あ、もう……。

「当たり前だろ、普段から頑張っている紗良に勝てるなんて思っていないぞ」

　それと彼が乗っかってしまうのが問題だった。

　どちらが勝っているとかそういう話がしたいわけではない、最近の姉はおかしい、もしかしたら彼がこちらにばかり構っていてすねているのかもしれなかった。

　でも、上手いやり方が見つからないと言うよりも譲りたくないというそれが大きくてどうにもならない、いまのこの状態は姉には悪いけど理想の状態と言えてしまうからだ。

「あ、お世辞はいいから……」

「「お世辞じゃない、本気で言っている」」

「い、いまはやめて、二人ともおかしいわよ」

「「おかしくない」」

　い、いや、こうしてぶつかり合いながらも一緒にいられる二人が実は最強なのでは？　なら私と彼のそれは……って、簡単に変えたりはしないで頑張らなければならない。

「な、仲間外れにしないでちょうだい」

「していないよ、少なくともあたしは紗良の味方だ」

「あ、ずるいだろそれは、俺もそのつもりでいるぞ」

「ふっ、つもりじゃ駄目なんだよ、峰は負けたんだ」

「負けていない、紗良がすぐに否定をしないところが答えだろ」

　だ、だからそこで盛り上がられても困るのだ。

　だけど言えば言うほど逆効果になりそうだったから黙っておいた、ご飯を美味しい美味しいと食べたいのもあった。