06話
「ぐは……あ、あとは頼んだ……ぞ」
着いた瞬間にこれだったから先に着いていた白木に聞くしかなかった。
ちなみにこれは由良が言い出したことなので離脱をされても困る、だって由良が消えたら二人きりになってしまうからだ。
紗良がいないときだからこそできる話があるとのことだったが、こうやって仲間外れにされることを一番嫌っているからどうなるのかが容易に想像できてしまうというやつだった。
「なあ白木、由良はどうしたんだ?」
「さあ? 集合場所に着いた時点で弱っていたようですから」
「ふぅ、少し落ち着いた、揃ったからファミレスにでも行くか」
「だな、俺はよくても由良や白木は寒いの気になるだろうし」
「私は別に外でも構いませんけどね、ま、そういうことなら付いて行くだけです」
ちゃんと解散になった後に相手をすれば許してくれるだろうか? それとも、そうやってご機嫌取りみたいなことをしたらそのつもりもないのに煽ってしまっているようなものだろうか。
というか、同じ家に住んでいるのによくばれずに出てきたなという感想だった、俊敏に動けることは分かっているがいまは冬ということで暖かい時期なんかよりは弱体化しているはず、今日のこれを意地でも守りたいというわけではないだろうから謎だ。
いや、やはりありえない、早起きが得意な紗良に限ってそんなことは無理だ。
「おい由良、紗良は――」
「今日は風邪だ」
「はっ? だ、だったらいてやらなくちゃいけないだろ」
俺達で集まっている場合ではない、せめて姉である由良はいてやるべきだ。
「あたし達がいたってなにもできない、寧ろ負担をかけてしまうだけだ、無理をするところが容易に想像できる」
「そうですよ渡邊先輩、それよりも知らなかったんですか? 連絡とかしてくれないんですね」
「ぐはっ……知らなかったのは俺だけかよ……」
「行くぞ、そんなに行きたいなら解散になってから行けばいい」
「私もこれが終わったら行きます」
付いて行くか、下手に抵抗をするよりはこれを早く終わらせてしまった方がいい。
役立てるとは思わないから由良を早く家に帰すのだ、んで、紗良が元気になったらまたなにか求めてきたことに対して応えてやりたいと思う。
ファミレス店内は日曜でもまだ昼ということもあって混んでいなかった、すんなり案内されたからこういう点でも神が援護してくれているように感じる。
適当に注文を済ませて対面に座っている二人を見ていると「見すぎですよ」と不満げな白木、由良の方はなにも言わない。
「由良先輩、ちょっと落ち着きがないですね」
「……追い出されたようなものだからな」
「なるほど」
「嫌だからじゃないのは分かっている、だが、やっぱり気になるだろ……」
そういうことだったのか……って、なんで隠したのか。
年上が相手だろうがぺらぺら喋ることができる白木だって少しの間、黙った、流石に料理が運ばれてきてからは明るかったが。
でも、美味しい物を食べても由良のやつはそのままで気になる。
「だってよ、ここで峰だけ受け入れたら気にならないかっ? 姉よりも男かよって言いたくなるだろ」
姉を遠ざけたなら俺を入れるわけがないだろうから安心していい、というか、連絡をしてこなかった時点で分かり切っていることだ。
ただ、由良の言う通りだ、行ったところで役に立てたりはしない、一緒にいるだけで安心できるような人間でもない。
「ですね、それが渡邊先輩なら尚更のことです」
「別に峰だからとかじゃないが……」
「今度は大丈夫ですよ、私達がある程度の時間、外にいたということは紗良ちゃんだって休めたということですから、きっと迎え入れてくれますよ」
「そ、そうかな……? だったらいいんだけどさ」
なんか過去一番で柔らかい由良を見ている気がする。
白木が上手いのかもしれない、急激にではなく、じわじわと距離を詰めるのがな。
「普段、渡邊先輩に使われているんですからこういうときは使えばいいんです」
「いや、峰はこっちを利用しようとなんてしてこないぞ、寧ろ姉妹で世話になっている」
「またまたー……って、優しいんですね、渡邊先輩は感謝した方がいいですよ」
「ああ、分かっているよ」
料理を食べたら解散に――全員同じ場所に向かっているがそういうことになった。
菅鷲家に入らせてもらう、別に悪いことをしているわけではないのに緊張した、紗良が下りてきたときなんかはもっとやばかった。
「はぁ、なんで連れてきたのよ」
「峰が会いたいってうるさかったからだっ」
「心配だった、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「ならよかった」
もうだいぶ治りかけているのかもしれない、ただ、そういうときが一番危ういから座らせておくことにする。
「でも、その子と一緒に行動をしていたことが分かって爆発しそうだわ」
「私は渡邊先輩にこれっぽっちも興味を抱いていないよー」
「そう、ならいいけどね」
いや、こんな話を続けるぐらいなら部屋で寝ていてもらった方がいいか。
弱ったままでいてほしくない、ゆっくり会話することもできないからそれは嫌だった。
「はぁ……」
「渡邊先輩っていつもあんな感じなの?」
「ええ、大丈夫と言っても聞いてくれないのよ」
残ってくれなかった、弱ったままだと嫌だからということで帰ってしまった。
朝は確かに離れておくように言ったけど求めてもいないのに姉もお部屋に戻ってしまったから寂しい、彼女がいてくれてもそういうことになる。
「今更だけど汗臭くない?」
風邪を引いていなくても寝汗をかいているという情報を見た、となれば、風邪のときはもっと酷いことになるわけで、彼女が勝手に付いてきただけなのだとしても気になってしまったのだ。
同性が相手だとしてもだ、だからこその難しさというやつがある。
「大丈夫だよ、あ、そのことを考えてくれたのかも」
「まあ……ないこともないでしょうけど」
寝ていた方がいい、俺がいても悪化させるだけだろ、どうしても寂しいなら由良にいてもらえばいい、先程実際に言われたことだ。
でも、本当はお部屋に入らないようにしたいだけのように見えた、私が行くのは許可をしてくれても逆は駄目なのだ。
「あとは簡単にお部屋に入ったりするべきじゃないって考えているんじゃないかな」
「ずいぶんと柔らかくなったわね、今日はなにをしたの?」
「ファミレスに行ってきただけだよ、自分だけが紗良ちゃんが風邪を引いたことを知らなくてショックを受けていたよ」
姉に離れるように言わずにちゃんと連絡をしておけば裏で彼女と会われることもなかったのだろうか? もしそうなら馬鹿なことをしたことになってしまう。
自分がきっかけを作って勝手に気にするなんてアホすぎるだろう、だから高く評価をしてもらいたくなかった。
「さてと、そろそろ帰ろうかな」
「ねえ、峰先輩のお家に行ってもいいと思う?」
「うーん……拒絶はされないだろうけど……」
「でも、このままじゃ嫌なのよ」
「分かったっ、私に任せてっ」
大丈夫、なんだかんだで受け入れてくれる、そう考える私とこういうときだけは厳しいのではないかと不安になる自分がいるのだ。
だから彼女に頼った、自分が弱ったらすぐにこれだから本当に呆れる。
「押すよ?」
「え、ええ」
インターホンを鳴らすとすぐに峰先輩が出てきて驚いたような顔をした、でも、すぐに「上がれよ」と言ってくれて上がらせてもらうことになった、空気を読んだつもりなのかあの子が帰ろうとしたからありがとうとお礼を言っておいた。
「じっとできないなんて駄目だな」
「……あのままで終わるのは嫌だったの」
ちゃんと駄目だと言ってくれるのはいいところだ。
「終わらないよ、それに元気でいてくれないと嫌なんだ」
「……姉にも言うわよね?」
「まあな、ただ、ださい話だけどさ、前とはやっぱり違うよ」
「ださい?」
「だって露骨な差を作りたくないとか言っておいてこれだからな」
いや、そんなことはないと思う、今日だって姉に誘われた結果だろう。
それでもちゃんとこっちを優先してくれていることには変わらない、ちょっとずるいけど風邪という状態を利用して甘えておく。
「熱いな、まだ駄目なんだろ?」
「少しだけね」
「布団を敷いてやるよ、いてやるから寝てくれ」
「あなたと一緒に寝たい」
「じゃあそれで、最悪、俺に移せばいい」
うーん……。
お布団を敷いている間、ずっと見ていたけどなにも変わらなかった、いいことだけど少しだけ気になる。
敷き終えてこちらに寝転ぶように言ってきてからもそう、隣に寝転んでもそう、あくまでいつも通りの峰先輩だ。
「誰にだってしているわけじゃないぞ」
「ええ、それよりもどうして急に?」
「なんか不満ですよという顔をしていたからだ」
「それはあなたが普通だからよ、もう少しぐらい『えっ!?』とか慌ててくれても……」
「風邪で寝ていると聞いたとき驚いた、せめて由良はいてやれよと言っても負担をかけるだけだからと言われて駄目になったんだ。あと、素直に受け入れておけばすぐに解散になって紗良のところに行けると思った、実際、それは正解だったわけだ」
鈍感のようなそうではないような……。
「そ、そういうことではなくて……私とあなたは同性というわけではないのよ?」
「だから最初に言っただろ、誰にでもしているわけじゃない」
求めてくれればと彼はいつも言ってくれているけど求めすぎたら駄目になりそうだ、そして私はここでも失敗をしたことになる。
「……わがままを言ってばかりでごめんなさい」
「それは弱っているからだ、元気になったらしっかり者の紗良に戻る」
「普段も同じよ、あなたに甘えてばかりじゃない」
「そうか? 全くそんなことはないぞ、甘えるならもっと分かりやすくやるだろ」
なにかおかしなことになった、あれで甘えていない扱いなら彼的にはどれだけやれば甘えたことになるのか。
手をつなぐとかだ、抱きしめるとかまでしてやっとということなら大変だとしか言いようがなかった。
私だってなにも気にせずにできているというわけではない、毎回毎回、心臓を慌てさせるようなことになれば寿命が縮まりそうだ。
「はは、だけど安心しろ、紗良にだけ頑張らせたりしない」
「え、え……?」
「いまは気にしなくていい、ちゃんといるから寝てくれ」
い、いや、寝られそうにないのだけど……。
でも、頑張って寝ることだけに集中したのだった。
「よう、もう十八時だけど体調はどうだ?」
「……えっ、あ、た、体調は……大丈夫そうだけど……」
「ならよかった」
二時間程度で起こすのも微妙だし、風呂なんかにも入りたいだろうから朝まで寝かせるということも残念ながらできなかった、だから五時間ぐらいが経過してからこうさせてもらったことになる。
「風呂に入るか? それとも、ご飯を食べるか? 食べるなら作ってくる」
「それならちょっとお腹が空いたからご飯を……」
「分かった」
あまり利用機会のないスマホを有効活用できるいいチャンスだった、冷やご飯があったからおじやを作って持って行く。
「ほい、無理をしなくていいからな」
「ありがとう」
「それで風呂はどうする……って、なんで笑うんだよ」
「いえ、だってどうしてもお風呂に入らせたがるのが峰先輩だなと思って」
「汗をかいただろ? 着替えとかなら貸してやるから入れよ」
女子としては臭っていなくても気になるものではないのか? 一応、考えて行動ができるつもりでいるから当たり前のことをしただけだが。
もちろん、家で入るということならちゃんと送るから安心してほしい、なにもここで入ってもらうことに拘っているわけではないのだ。
「そんなに汗臭いの?」
「いや? 下着の件なら由良に頼んで持ってきてもらうから安心しろ」
とはいえ、もう既に連絡をしてしまっているからその場合は由良に謝るしかない、まあ由良ならこちらに軽く攻撃をしながらも許してくれるはずだ。
「ま、前もそうだけどよく下着のことについて真顔で話せるわね」
「やましいことはなにもないからだ」
「ふふ、分かったわ、お姉ちゃんにも会いたかったから来てくれるということならありがたいもの、ここで変に拒んだら全部なくなりそうだから入らせてもらうわ」
よし、なら――と、来たな。
入る前に来てくれたから事故が起こることもない、まあ、由良に行かせておけば全くそんなことにはならないか。
「悪いな……って、下着を直で持ってきてやるなよ……」
「なんか土産みたいでいいだろ? それより紗良をすぐに返さないとはなんのつもりだ」
「寝かせていたんだよ、じっとできないところはまだ子どもって感じがしたけど大人しく寝てくれて助かったぜ」
とりあえず目のやり場に困るから後ろにいた紗良に渡してもらって俺は部屋に移動する、あ。
「なあ由良、服も持ってきてもらえばよかったな」
「いいだろ、そういうときは気になる男の服を着たいってもんだ」
「まあ、貸すけど、それはないだろうな」
で、一階に戻ると何故か洗面所の前で座っている紗良がいて聞いてみると、
「や、やっぱり勝手に使わせてもらうのは違うでしょう?」
「はは、悪かったな」
ということだったので謝っておいた。
まあでも、着替えも渡せるからこれでもっと事故は起こらなくなる、更になにも起きないようにリビングに移動する。
「寝ているときどこにいたんだ?」
「横だ、一緒に寝転んでいた」
十五時ぐらいまで一緒に寝てしまったからちゃんと見てやることができなかった、あそこはちゃんと起きておいて飲み物を持ってきたりなどをしなければならないところだった。
「峰は紗良だって決めているのか?」
「当たり前だろ、そうでもなければ断っているよ」
買い物に付き合ってほしいとか一緒に遊びたい程度なら受け入れるが紗良のような踏み込んだ要求を誰からでも受け入れるわけがない。
それに俺は誰か一人に好きになってもらえればそれでいい。
「ならいい、そうか、そこまで紗良は求めるようになったんだな」
「俺がしたとは――」
「峰ができるわけがないだろ」
「そ、そんなことはないぞ、抱きしめることだって余裕でできる」
「ま、よく考えてしてやってくれ」
当たり前だ、求めているであろうとき今度はこちらからがしっと決めたいと思う。
紗良にだけ頑張らせないと決めたのだからやらなければ駄目だ、多分、俺から動くことでもっと甘えやすくなるはずだ。
そうすれば不満が溜まることもないだろうし、異性と過ごしていても気にならなくなるだろうと考えていた。
「ふぅ、気持ちがよかったわ」
「おかえり」
「汚したくないからつかることはしなかったわ」
「遠慮するなよ、これだったら菅鷲家まで帰した方がよかったか」
先に動いたことが今回は少しだけ悪い方に傾いた、ような……そうではないようなという感じだった。
ただ、風呂に入る入らないでぐだぐだになるよりはマシだと言える、入れたからこそこうしてまた休むことができたのだから。
「どっちにしても今日は無理ね」
「さ、湯冷めをしないようにまた布団に入れ」
「ええ、お腹もいっぱいだから帰るまで少しゆっくりさせてもらうわ」
「今日は泊まるぞ、いいだろ?」
「おう、いいぞ、それなら後で由良にもなんか作るよ」
ではなく、紗良が大人しくゆっくりするならいまから作ればいいか。
両親のためにもなる、なんなら俺も腹を満たせるというわけだ。
「つかよ、峰でも紗良でもいいからなにかがあったら教えてくれよ、姉だけ仲間外れか? 露骨に差を作りたくないと言っていたのは嘘だったのか?」
「隠そうとしているわけじゃない、ただ、あんまり進展していないからだよ」
いまのままハイテンションで教えてもただの勘違い野郎ということになってしまう、そうでなくてもという話ではあるが恥ずかしい、そういうのもあってもっと待ってもらうしかなかった。
「敬語もやめて一緒に寝るぐらいなのに?」
「まだまだだろ、もっと紗良が真っすぐに甘えることができるようになればそこでやっとだな」
「なるほどな、だから過去の峰も異性の好意に気づけなかったのか」
「いないだろそんなの」
絶対にいない、俺の友達は由良と紗良も含まれているかな……というぐらいだった、それに矛盾しているが仮にあったとしても来なければないのと同じことになる、だから意味のない話だ。
「ふ、二人ともそっちに行ってしまったら寂しいわ」
「由良、今度は一緒にいてやれ」
「峰も来い」
「なら三人で行くか」
その前にとにかく夜ご飯を作ってから移動した、客間で食べることは全くしないから中々に新鮮だった。
弱っているわけではないにしても誰かが寝ているところでというのも面白い、ではなく、このままだとやはり嫌だから早く普段通りの紗良に戻ってほしい。
そうしたらまた出かけてもいいかもな、というところまで考えてもうクリスマスということを思い出した。
プレゼントの件を頑張らなければいけないような気がしたのだった。
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