05話
「来ないな」
「来なくていい、あと、峰は紗良を優先してやれ」
「嫌なら嫌だと言えばいい、そうすれば一緒にいたりはしない。だけどそうじゃないならいさせてくれよ、せめてちゃんとなにもないと分かるまではさ」
最低でも一週間ぐらいはこのままでいたい、やべー奴ならまず我慢ができずに突撃してくることだろう。
正直、我慢をすることができてしまう人間の方が困るのだ、手を出してきてくれるのが一番理想だと言えた。
「ったく、変なところで頑固な奴だ、だけどそういうところが峰のいいところなんだよな」
「いいところとかそういうのはどうでもいい、姉妹揃って意地を張ったりするな」
「意地を張っているのは峰だろ」
いいいい、嫌だと言われるまで続けるだけだ――と考えてから三日後のこと、あの男子が近づいてきたから由良に気づかれる前に二人で学校を出た。
「え? あ、別に由良が好きだとかじゃないって?」
「ああ、そもそも好きになれるほど菅鷲のことを知らないよ」
「でも、なんか嫌がっていたぞ?」
「あー……友達に頼まれて色々聞こうとしたんだよ」
「そういうことか」
ならちゃんと説明をした方がいい、いまのままだと無駄に敵視されるだけだ。
というわけで二人で待っていたらだらだらと由良が歩いてきた、隣の男子を見ただけで一気に変わったからすぐに止める。
「友達……って、そういうのは自分で聞くべきだろ」
「ちょっと逆らえなくてさ、リーダー的存在だからさ」
「しゃっきりしろ、だがあんたが悪いわけじゃないからあたしが止めてやる」
「い、いや、そんなことはしなくていいよ、迷惑をかけたぐらいなんだからさ」
まあ、由良がいないところでやられてしまうかもしれないからなるべく動きたくないのは分かるが、このままではなにも変わらない、ずっと使われてしまうだけだ。
興味もないのに近づかれても微妙でどちらにとってもデメリットしかない、変えるなら由良もいてくれているいまだろう。
「気にするな、案内してくれ」
「わ、渡邊」
「俺も行くから案内してくれ」
「に、似た者同士かよ……」
意外というかなんというか、由良を連れて行ったらたじたじで微妙だった。
だが、彼もこれで自信を持って行動できるようになっただろう、何故そう思うのかはやたらとすっきりとしたような顔をしていたからだ。
「よかったな……と思ったけどあの男子が由良の格好良さに惚れてまた来るかもな」
「やめろ、男子の友達は峰だけでいい」
「いつも一緒にいてくれてありがとな」
小さい頃に一緒にいた恋愛に興味がないなんて言っていた女子がさらっと恋をして急に消えてしまったからだった、由良だって急に消えてしまうかもしれないから言える内に言ってきたい。
ちゃんと伝わらなくても言えたという事実が大切だった。
「はあ? なんだ急に、おかしな奴だな」
「だって当たり前じゃないだろ? それこそ他にも沢山いるのに必ず来てくれるから――なんだよ、素直に受け取れよ」
「嫌だね、なんか背中がぞわぞわするんだ」
なにも言わずに歩き出したからこちらも慌てて追う、すぐに「今日は紗良を待つ」と言ってきたからああと返しておいた。
なんだかんだで妹が大好きすぎる存在だ、あの日だって何回も連絡をしていたみたいだからシスコンと言ってもいいと思う。
「着いたな――……なんだよ?」
「優しいんだな、俺に対してもそうだからありがたいぜ」
「だからってなんだ頭を撫でるんだ」
「丁度いいところに頭があるからだ」
男子扱いをしているとかそういうことでもないのだから嫌ではないなら受け入れてほしい、嫌なら押すなりして離れてほしい。
まあ、これは少しわがままではあるが馬鹿にしているわけではないということは分かってもらいたかった。
「そんなに低くないぞっ、大体な、紗良が――」
「私がどうかしたの?」
由良の後方から歩いてきていたから見えていたため驚かずに済んだ。
ただ、この前からこういうことが多い気がする。
「さ、紗良、これはそういうのじゃないからなっ」
「なにを慌てているのよ、峰先輩がお姉ちゃんの頭をなでるのなんて初めてではないじゃない」
「と、とにかく、なにもないからな、あの件だって解決したんだ」
「そうなの? よかったわね」
「男子とのそれは解決したからいいが峰との件は駄目なんだー!」
行ってしまった、紗良も少し冷たい声音で「はぁ、落ち着きがないんだから」と。
それからこちらを見てきて「帰りましょう」と言ってきたから頷いて歩き出した、割とすぐに背後から「なんで頭をなでることになったんですか?」と言葉で刺されたが。
「いつも世話になっていたからだ」
「ふぅん、あ、確かにそうですね、私達姉妹も峰先輩にお世話になっています」
「紗良もありがとな」
「はい、……してくれないんですか?」
「触っていいのか? そうか、それなら」
姉妹で差があったりはしない、さらさらしていて頑張っていることがよく分かる。
「この手は私が貰います、でも、一人で独占するつもりはありません、姉にも左手はあげていいですよ」
「な、なんだそれ……あと、なんで敬語のときはお姉ちゃんと呼ばないんだ?」
「それっぽいからです」
「あ、そう、というかもう敬語じゃなくていいぞ」
「ならその声も私のものにします」
怖いぞこの後輩女子、最終的には解体されて頭だけ、腕だけみたいなことになりそうだ。
俺はまだまだ死にたくない、病んだ感じではなく健全なカップルみたいになりたかった。
「手伝ってくれてありがとうございます」
「これぐらい気にするなよ、それに紗良が作ったご飯が食べられるなら頑張るさ」
「冬なのでそこで……いいですか?」
「おう、ちょっと寄って行くか」
公園にはそれなりに子どもや大人がいた。
俺も由良も小さい頃は走り回ったりして遊んだ場所だからなんか落ち着く、横にいるのがその妹に変わっても同じだ。
「もう十二月だな、クリスマス付近になったら紗良は忙しくなりそうだ」
「なんでですか?」
「そりゃ誘われるからだろ、関わっていなくたって狙っている男子はいる」
由良のことを狙っていた最近の男子とかな、分かりやすい差はないから彼女の場合でも変わらない。
断ってもそうでなくても構わないがどちらにしろ答えなければならない側としては大変だ、だからそういう点ではモテたりしない方がいい。
「私は峰先輩と過ごすつもりなので関係ありません」
「紗良的にはな……っと、そうじゃない、いいのか?」
「はい、もちろん姉も誘いますけどね」
「そうか、ならなにかプレゼントを用意しておくよ」
由良は寝ることが好きだからそれ関連の物を、ただ彼女の場合はどうしたらいいのか。
なんか気に入っているみたいだから優先すれば~なんて考えが出てきたものの、どうせならなにか残る物を贈りたかった。
だってそうでもしないとなんらかのことがあって終わったときになにも残らないからだ、まあでも、そのなにかがあったら全部消し去りたいかもしれないから……というそれもある。
とにかく、時間がまだあるのが救いだった、必要なことをやりつつもちゃんと考えよう。
「あの」
「今更だけど敬語はいいって言っただろ」
可能な範囲で姉妹で変わらない状態にしたい、まずはここからスタートだ。
「ふぅ、食材を冷蔵庫にしまったら峰先輩のお家に行きたいの」
「分かった、行くか」
由良の方はまた遊びに行っているみたいだったから誘うこともできなかった。
長くいるつもりはなかったようですぐに俺の家に移動することになったからいつも通り、飲み物なんかは持ってきて床に座る。
「あなたに近づき始めたときは不安定だったけど最近は少し余裕が出てきたの」
「いいことだな」
いまならどうしてそれまでは近づいていなかったのか、なにがきっかけでこうしようとなったのかを教えてくれる気がした。
とはいえ、話しかけられて相手をしているだけでよさそうだから聞いたりはしないでおく、少し不安だというそれが影響していた。
「あなたがちゃんと優先してくれているからよ? まあ、少しだけ不満な点もあるけど……」
「由良とのことだろ? それは悪い」
と謝るのも微妙か、「矛盾しているけどそれは仕方がないわよ」と結局、違う、大丈夫だと答えてもらいたくて口にしているみたいに見えてしまう。
由良なら間違いなくこんなことは言わせない、堂々としているから他の人間だって付いて行くというものだ。
「あと、これは不満ではないけどなんかやたらと私のことを高く評価してくれているわよね、実際は違うから気になってしまうわ」
「実際に真面目だろ?」
「真面目……前にも言ったと思うけど私なんて適当よ」
「自分を下げてもいいことなんかなにもないぞー」
俺だったら一緒にやってくれている人間がいる状態で三時間も頑張れない、由良から聞いたが家でもずっとそんな感じみたいだからすごいとしか言いようがない。
「だって学校に行くよりもあなたといたいと考えてしまうぐらいなのよ?」
「だからその点でも同じ学校がよかったよな、休み時間に会える環境なら多少はマシだろ?」
「ええ、でも、残念なことに叶わないのよね」
そうなんだよな、あと一学年違ったら一緒に通うなんてこともできていたができない。
こうして放課後や休みなんかには優先していても信じきることはできないだろう、見えないからこそ悪い方に考えてしまうことが多いのが人間だからだ。
ただ、彼女がそうするとまでは断言できなくても原因を作ったのは俺でもあるからなんとかしたかった。
「なにか俺にできることはないか?」
「峰先輩にできること……あ、無理じゃないなら一緒に帰りたい……」
いいのか? 前、待たれるのが嫌だとか言っていたのに。
だが、彼女が求めているのであれば応えるだけだ、今回もこのスタンスでいることを少し気にしつつもやはり楽でいいというそれには勝てなかった。
「どこで待っていればいい?」
「中学校近くの細道……かしら」
「分かった、だけど急がなくていいからな、頼まれなくても外にいる人間なんだからさ」
「ええ、ありがとう」
ありがとうもおかしい、言うにしても何度か繰り返してからにしてもらいたい。
もちろん守るがやってもいないのに言われてもなにも嬉しくはなかった。
「こんにちは! 私のことは
紗良の方を見てみると「あの男の子の妹よ」と答えてくれたがそれでもよく分からない。
友達が心配だから付いてきたというところだろうか、まあ、友達経由の情報だけだと偏っているかもしれないから興味があるならこれもありだと思う。
「なるほどなるほど」
「なあ、兄貴とは仲直りできたのか?」
「できていません! 食べ物の恨みは怖いんです!」
「そういえば俺もそれで由良と、あ、紗良の姉ちゃんと喧嘩したことがあるぞ」
姉妹の母が食べていいと言ってくれたから食べたら三週間喋ってくれなくなったという結果に終わった、あのときは困った、同じ物を用意しても叩き落としてきたぐらいだ。
もう遅いがだからやめた方がいい、相手が女子の場合なら尚更そういうことになる。
「えー! 悪ですよ! そんなことをしては駄目ですよ!」
「あれからは一度もしていないよ」
「なら大丈夫です、それとちょっと向こうでいいですか? あ、ちゃんと戻ってくるから紗良ちゃんはそこで待っていてね」
「分かったわ」
少し離れたところであくまで笑顔のまま「どういうつもりなんですかー?」と聞いてきた。
「紗良が興味を持ってくれている、それで俺も最近は少し変えて優先しているところだな」
「高校二年生なんですよね? そこはより大人に近い存在として止めるべきでは?」
「求めてくれたから――」
「ということは求めてくれれば誰にでも応えるということですよね? それこそ紗良ちゃんのお姉さんの由良さんからでも同じだと、そういうことですよね?」
知っていたのか、だけど細かいところまでは知らないようだ。
というか、小学生なら問題だが中学生ならと考えていた自分ではあるが……実は問題だったのだろうか? せめて高校一年生ぐらいまでだろと言いたいのかもしれない。
「でも、そんなことにはならなかったんだから――」
「はぁ、紗良ちゃんはこんな人のことを好きになっちゃっていいのかなぁ」
「まあ、それは俺も思う」
俺らしく相手をさせてもらっているときに色々と頼まれて動いたことがあるからなにもできていないなんて言うつもりはない、が、由良と比べてしまうと劣るのも事実だからな。
それこそ紗良のことをよく分かっている由良よりも紗良のために動けていたらそれでもおかしくなかった、それだけ優先しているということは俺的にもいい存在だということになるから気になっていると言われて喜べたことだろうが……。
「はぁ、余計に心配になります」
「お、なら紗良ともっといてやってくれよ、俺はそういう存在を求めていたんだ」
ふふふ、言葉で刺すことで牽制しておきたかったのだろうがこれほどありがたいことはない。
紗良がいるところでこういうやり取りをすると絶対にいらないと言われるし、逆に紗良がいないとこんな機会はやってこないということで勝手に来てくれたのは感謝しかなかった。
だけど女子の怖いところをこの目で直接見ることになると、実際に自分が対象になるとそれはそれでなんにも影響を受けないということは不可能だと分かってしまったのは微妙だ。
時間がどれだけ経っても姉妹がずっといてくれるとは考えられない、去られるだけなら悲しくてもまだ耐えられるものの、悪口なんかを言ってきたりした場合にはどうなるのかは分からないからだ。
「は、はあ? 私はあなたなんかに興味はないですけど……」
「いやだから、紗良の近くに白木みたいな存在がいてほしかったんだ、なあ頼むよ」
「あなたに言われなくてもお友達なので行きますけど」
「それならもっと最高だな!」
興奮して申し訳ないが事実、最高なのだから仕方がない。
学校では白木が、外では俺と由良や家族が支えられればいいと考えている。
「なに大声を出しているのよ、それに行動を縛りたくはないからやめてちょうだい」
「言うと思ったぜ、白木も似たようなことで断られたことがあるだろ?」
「ありますね、心配して言っているのに『大丈夫よ』などと言って受け入れてくれないんです、そして実際に一人でなんとかしてしまうんですよね」
「うわあ、容易に想像ができるぞ、白木も苦労しているんだな……」
となると、俺に対して素直に要求してきてくれているのは回数的に該当しないとしてもレア、なのでは? そのことにももっと感謝しなければならないのかもしれない。
「まさかこんなところに仲間がいるとは……」
「ちょっと、勝手に二人で盛り上がらないでちょうだい」
「とりあえず私は確認できたから帰るね、渡邊先輩、私はまだ認めていませんから」
「おう、気を付けろよー」
「はぁ……こんなのでいいのかなぁ」
いいのだ、俺はこういう人間だ。
適当ではないがこのままの状態なら白木が来てくれる、そうすれば紗良だって素直に甘えられるようになるかもしれない、というか、年上の異性の俺にできるのだから同級生相手にはできなければならないのだ。
「驚いたわ、まさか付いてくるとは……」
「いい友達だな」
「普段はそうなのよ、でも、これはやりすぎじゃない? あの子が年上の男の人を気にしていたとして、その場合でも私はチェックをするために動いたりはしないわよ」
「知らないから白木が違うと言うつもりはないけどそりゃ紗良がしっかり者だからだろ、逆に心配になるものなんだよ、で、今回は悪い方だったというだけだ」
挙げたら切りがないからいちいち言ったりはしないが足りないところが沢山ありすぎる。
「悪い方って……峰先輩は悪くないじゃない」
「紗良って何故か俺のことを高く評価してくれているよな、やっぱり気に入るのはいいことばかりじゃないな」
逆ならよかった、いや、興味がなかった場合は紗良的に嫌だろうがその方が自然だ。
優しくしてくれる、安定して一緒にいられる、黙られても気まずくならないなどなど、いいところが沢山ある、好きになってもなんらおかしなことではない。
だが、その逆の逆だと……。
「峰先輩」
「な、なんで俺は怖い顔で見られているのか、紗良、分かっているなら教えてくれないか?」
「あなたが変なことばかり言うからでしょう?」
「変なことじゃなくてちゃんと分かっているということだ、紗良に好かれて当然みたいな考えでいられるよりはいいだろ?」
「どうかしらね」
どうかしらね……って、んな適当に返されても困るが。
自信を持てるように分かりやすく彼女に役に立ちたかった、それができれば俺だって下げるようなことをしなくて済むのだから。
だけどこれまで小さなことでしか役立てていないから難しそうだった。
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