第5話

 実直な長平の人柄は公務員に向いていた。どんな仕事も杓子定規過ぎるきらいはあるが、真摯にこなす姿は町役場で称賛されていた。ここでも長平は弱いものの味方であった。長平には力もさることながら揺らがない精神がもたらす緩まぬ弁舌があった。後輩の手柄を横取りするような上司には容赦が無かった。何かを解決するたび長平の心には高揚が生まれたが、その耳には卑怯者や弱者たちの醜い弁明と口汚い遠吠えが残った。それを洗い流すように長平は滝行を続けた。彼は律儀を通し続け、気が付けば貞淑な妻をめとり、可憐な娘に恵まれ、安定した家庭を手に入れていた。

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