第2話

 巨漢の介護士は大きな体を揺さぶるようにして施設の大浴場へと向かった。出野さんの行先は申し送りでちゃんと彼の頭に入っている。にこやかに脱衣所から大浴場を覗くとやはり出野さんがひとり着衣のままシャワーで水を浴びていた。

「出野さん、お食事のあとは水浴びですか?」

 自分の制服が濡れないように後ろからそっと声をかける丸々とした介護士、どんな状況でも相手を否定しないという彼が受けた介護セミナーは功を奏しているようだ。出野さんと呼ばれた高齢男性はまるで土下座するかのように、床に這いつくばって頭から冷水のシャワーを浴びていた。すでに洋服はびしょびしょになっており、このままだと体温低下が懸念される。ずぶ濡れの老人はなにやらぶつぶつと呟いており最悪水で窒息する恐れもある。巨体の男性介護士はにこやかに出野長平の前に回り、その顔を見てさらににこっとした。そして

「そろそろシャワー止めますね。」

とシャワーの水栓を止めた。出野老人はぶるぶるっと体をおこりのように震わせ、その頭を下げた。

「違うんです。俺じゃないんです。俺じゃ……」

 上手に入所者さんを危険から遠ざけ、相手を否定しない、傷つけない配慮を持った自らの介護に満足していた男性介護士は冷え切った体を拭いてあげながら、

「やれやれ、入所者さんに謝らせ、言い訳を言わせてしまった。ぼくのケアもまだまだだな。」

と舌打ち交じりに呟きつつも向上心に目を輝かせていた。

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