釈明の豪雨

Bamse_TKE

第1話

「また長平さんがいない。」

 人型よりは卵型に近い巨漢の男性介護士が呟いた。高齢者介護施設での昼食はにぎやかだ。食事の時間になるといつも会話に花が咲く。その内容は孫の自慢であったり、なかなか面会に来てくれない家族への愚痴であったり、入所者同士の噂話であったり様々だ。食事も会話も同じ口やのどを使うので、相加相乗効果でどちらも動きが滑らかになってくれればよいのだが、おしゃべりに夢中になるあまり食べ物をのどに詰まらせたり、うっかりむせこむ高齢者もいるものだから介護スタッフは食事時間は気が抜けない。どうにか体調不良者を一人も出さずに昼食時間を終え、お茶をすすり終わった入所者たちをベッドに連れて行き、ようやく一息つこうと思ったその瞬間、入所者の一人出野長平さんが不在であることに気づいた。

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