extra scene 用心棒?

「こんにちは」

「やあ、カトラちゃん――」


 言葉が詰まったのは、カトラちゃんの後から入ってきた男があんまりにも大きかったものだから! 頭を下げて扉をくぐったその大男は、物珍しそうに店の中を見回している。まぁまた、そのがたいのいいこと。工事現場が似合いそうだ。


「いつも通り、小麦粉をくださる?」

「ああ、うん、はいよ。ええと……」


 普段なら“いつお店に持っていけばいい?”と聞くところなんだがね。俺が言葉を濁しているうちに、カトラちゃんは「ありがとう」ってにっこりして、お代を置いて、それから大男を見上げていた。


「ベル、お願いできる? そこに積んである袋なんだけど」


 うんうん、やっぱり、そのための大男だよな。大男は持っていたバッグ(いつもカトラちゃんが使ってる買い物用の大きいやつ)をカトラちゃんに渡して、積み上げてあった小麦粉の袋の横に膝をついた。


「一つでいいのか」

「二つも買ったら使い切る前にだめになっちゃうわ」

「ああ、そっか」


 そいつは無愛想に頷いて、ひょいと、本当に軽々二十五キロの袋を担ぎ上げた。またその持ち上げ方がね、ちゃんと腰にかからないやり方を知ってる感じだったわけで。やっぱり工事現場の人間なんじゃないかね?

 俺はもうたまらなくなっちまって、(だってカトラちゃんといえば難攻不落の要塞って有名なんだぜ)恐る恐る尋ねた(つっても、ストレートに聞く勇気まではなかったんだけどな)。


「カトラちゃん、その……」

「何?」

「お連れさんは、あれかい、用心棒かい?」

「あら、いいわね、それ。用心棒ですって、ベル。あなたにぴったりね」


 カトラちゃんのご機嫌な笑顔を向けられて、大男は少し口元をまごつかせた。


「……小麦粉を担いでくれる用心棒はなかなか珍しいと思うけどな」

「優しい用心棒さんでよかったわ」

「用心棒の動きを制限するのはまずいだろ」

「いざってときはそれを武器にしていいんだからね」

「足だけでどうにもならなそうだったらそうさせてもらうよ」

「ええ、よろしくね」


 大男がゆったりと頷く。


「それじゃ、また」

「はいよぉ、毎度ありぃ……」


 細くて小さいのと太くて大きいの。あまりにも違いすぎる二人の背中を見送って、静かになった店の中、俺は溜め息をついて椅子にかけた。


「ありゃあ用心棒じゃねぇなぁ……」

   fin.

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