extra scene 点検作業

 ラベンダーはたおやかに漂う。

 レモングラスはさっぱり爽やか。

 マジョラムはどこか神秘的で。

 リコリスは穏やかに微笑んでいる。

 乾燥させて瓶に詰めたハーブを、ひとつずつ検める。ゆっくり、じっくり、時間をかけて。香りが落ちていないかしら。カビが生えていないかしら。だめになっていたらどうしようって思うけれど、そうなったらもう仕方がない。早めに処分して次を用意するのよ。

 コルクをひとつ抜いて、また締めて、丁寧に丁寧に。これって考えを整理するのとよく似ているわ。結論を出さなきゃいけないことは何かしら。間違った方向に進んでいないかしら、ってね。だから思い出す。さっきしたばかりの小さな問いかけ。

 ねぇ、恋に落ちたと確信するのっていつ?

 アマンダは「キスしたいって思った時ね」

 コルネリアは「他の女にとられたらムカつく! って思った時よ」

 エリーザは「この人と一緒にいる時間が、一日の中で一番長いといいなぁって思ったら、ねぇ」

 ジョルジャは「私が相手を好きなのと同じくらい、相手も私を好きであってほしいと望んだときかしら」

 さすが四人だわ、ってあたしは溜め息。だってすごく納得できちゃったんだもの。肉体的な欲求と、精神的な欲求。両方が合わさって恋なのね。

 それじゃ、あたしはどうなのかしら。

 ジンジャーは鋭く刺激的。

 ルイボスは甘さと酸っぱさの混じる顔。

 シナモンは角の取れたとげのように。

 ホーステールは苦みを帯びて。

 ねぇ、あたしはどうなのかしら?

   fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る