第2話 「世界が崩れはじめる」
5分後、臨時速報が流れた。
イタリア沖で巨大クルーズ船が転覆しかけている。風も波もなく、いたって晴天なのに、とつぜんの機械トラブルが発生。現在、沈みつつある。
アナウンサーがこわばった顔でニュースを読み上げる途中で、新しい紙がさしこまれる。
「……臨時ニュースの途中ですが、さらに臨時ニュースが入りました。
インドで大河にかかっていた橋が突然崩落し、通行途中だった車および通行人が多数、川に転落したということです。軍と警察が救助にあたっています……」
冗談だろ、よせよ、おい。
アナウンサーの手に、べつの紙が挿しこまれる。
まるで地獄の黙示録だ。
「臨時ニュースの途中ですが……ハワイの休火山が、突然噴火を……ハワイだけじゃない? フィリピンでも……アイスランドでも……
えっ、暴動? アフリカ、ソラリ地区では暴動が始まり……」
画面がつぎつぎに切り替わった。
上空からの火山映像、マグマが見えているのはフィリピンだそうだ。アイスランド……氷の裂け目から湯気が吹きあがっている。
指先が、冷たくなっていくのが分かる。
ニュースはどんどん続いた。
オセアニアの小島では、過去の戦争で埋められた大量の人骨らしきものが発見された。
アジアの某天文研究所から、二年後に地球に衝突する可能性が高い小惑星が見つかったとの報道。
そしてついに……核弾頭が誤発射されそうに……。あと15分で、世界は崩れる。
おれは立ち上がった。ユイに電話する。
「ゆいっ! どこにいる?」
「えー。ロクんちの近くのコンビニ。やっぱ、何か差し入れようかなって。
そしたらみんなが水とか食べ物とか取り合ってて……あっ、やめてよ、危ないでしょ!」
スマホをぶん投げた。上下スエットのまま部屋から飛び出す。
ユイがあぶない。
救わなきゃ!
世界なんて、どうだっていい。
世界なんて、どうだっていい。
ただユイを救えれば……って。
……そうじゃないのか。
ユイだけじゃ、だめなんだ。
ユイもおれも、世界とつながっている。
あの通勤電車にはおれが乗るはずだったし、イタリアの豪華客船にはハネムーンで乗る予定だったかもしれない(結婚の予定はないけれども)。
将来、あのインドの橋でおれの子どもがドライブする可能性もゼロじゃないし(いや、子供が生まれる予定はまったくないんだってば!)、
ハワイの、フィリピンの、アイスランドの山を登るかもしれない。
世界は、流動している。
おれたちは流れの中にいる。
良くても悪くても、世界とつながっているんだ。
ゆるやかな流れのなかで何もできなくても、あきらめちゃいけない。
おれは、自分のやりたいことを選ぶんだ。
やりたいこと……。
ユイを救うこと。
世界の不運を引き受けること。
ユイを守ること。
それだけだ。
ガッと部屋のドアを開け、外へ出た瞬間、最初の不運が襲い掛かってきた!
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