安息日の戦士たち
タルタルソース柱島
幸か不幸か
「不幸だ・・・・・・」
ある週末、朝から気分が乗らない俺はつぶやいた。
お日様がサンサンと輝いていて、少しだけ涼しい風が吹いている日本晴れの朝にだ。
何が悲しくて、こんないい日に不幸にならねばならんのか。
「まあ、そう嘆かないのー」
先輩がコーヒーのカップを傾けながら慰めてくれる。
うーん、トレビアーンなどと独り言を言う先輩は状況を楽しみすぎなきらいがある。
「いや、休日出勤っすよ? 休日に! 何が悲しくて職場に来ねばならんのか! これを不幸と言わずして何と言いますか」
「ふーん。ま、そういやそだね」
「先輩だってジムに行くとか言ってたじゃないですか。それが仕事になるなんて」
週末は、久しぶりに快晴だと聞いたからツーリングにでも出かけようと思っていたのだ。
「じゃあ気分転換しよっか」
コーヒーカップを置いた先輩がにやりと笑う。
27歳独身。
超美人なのに下ネタトーク大好きがたたって、男が寄ってこない残念仕様。
「なんすか」
「幸運のことをなんて言うでしょー? ヒントは数字だよ」
「数字? ラッキーセブンとか?」
たばこの銘柄にそんな名前の・・・・・・あれは、ラッキーストライクか。
「おお! あったりー! じゃあ逆に不幸な番号はー?」
先輩はパチパチと手を叩き褒めてくれる。
「不幸、っすか? 666じゃないんすか」
確かなんか不吉な番号だったはずだ。
「悪魔の数字じゃん!」
「そうでしたっけ」
とか何とか言っているが、立派に業務時間中だったりする。
「ふふふ、ラッキーセブンがあるならアンラッキーセブンだってあるんだよ?」
先輩が耳元でささやいた。
ふわりと長い髪が揺れ、桜の香りが鼻こうをくすぐる。
「創世記にね、“神が天と地と万象とを6日間で創造し、7日目を安息日とした”ってあってね“7”は神聖な数字ってことになったんだって」
先輩の吐息がかかった耳元がこそばゆい。
俺はドキドキする心臓の音を聞かれまいと息をひそめた。
「7日目、つまり日曜日が休みだからラッキーセブンってことだねー」
ウヒヒと独特な笑い声が聞こえる。
「じゃ、じゃあ、その7日目の日曜日が休みじゃなくなったからアンラッキーって事っすか?」
まあ、休日出勤なんて嬉しくもないので、アンラッキーと言えば、その通りだ。
「せいかーい!」
先輩は立ち上がるとくるりと身をひるがえした。
腰までのロングヘアーが弧を描き、スタイル抜群の体が軽やかに舞った。
「でもね。安全とか安心ーとか。そういう意味で聞いたら悪くないんじゃない? 現にお客さん来ないし!」
「確かに誰も来ませんね!」
朝6時から出社しているが、電話もならなければ、誰もやってこない。
正直、暇を通り越して、ティータイムを楽しむくらいには優雅な時間が流れている。
「何もしないのにお給料がもらえる!」
先輩の顔が輝いた。
「言われてみればその通りである」
だが、やっぱり休みの日は休みたかった。
「私は、キミに逢えたからラッキーセブンだよ」
心の中でつぶやいた言葉を聞かれたのだろうか。
再び、耳元で先輩がささやいた。
アンラッキーセブンってなんだっけ。
安息日の戦士たち タルタルソース柱島 @hashira_jima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます